潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景

ノンフィクション

東北にて今も活動されていらっしゃるとあるダイバーの人生の物語です。

私は「潜水士」という仕事は約20年前に知りました。
身内がたまたまその資格を取得したと聞き、そういう仕事もあるのかくらいの認識でした。

普段は土木潜水士の仕事、
水中にもぐって離岸堤の基礎の水中写真を撮影するなどをして、
要請があったらそれに従い作業を行う。
その作業は、遺体の引き上げ。
バブル以降港にて車でダイブし自殺というケースが増え
その引き揚げ作業が警察、海上保安庁でも手が回らない。
手伝いしてくれないか。
と、この本の主人公「吉田」に声がかかります。

物語はこのシーンからはじまります。
「山岳救助はお金が莫大にかかるが、海難救助はお金がかからない」
そんなことが世の中信じられているそうで
救難にいき遺体を引き上げ、車も引き上げると
当たり前ですが費用が発生します。
警察、海上保安庁のお手伝いはあくまで「ボランティア」扱いです。
車を引き揚げるクレーン代金、海に潜るボンベ代金など当然発生します。
それを請求しに行くと遺族にキレられます。
踏み倒されて最終的に吉田は倒産してしまいます。
「お金にならない、請求にいっても鬼!悪魔と罵られて踏み倒されてしまう。
借金だけが増えてやってる意味があるのだろうか」
そう思いつつも遺体の引き上げをするのには彼の信条がありました。
その後生活がなんとか安定し
仕事も無事に軌道に乗った頃、東日本大震災がおきます。
その三日後、遺体捜査の依頼がきました。

物語形式のノンフィクションです。
実際の出来事、ましてや東日本大震災で津波被害にあった地域のこと
最初から最後まで海で亡くなった方々の遺体の話なので
読む方はご注意ください。
とてもショッキングなシーンがおおいです。
この本のまえに、「津波の霊たち 3・11 死と生の物語」を読みました。
この本も東日本大震災について書かれたものです。
読んでいて遺体捜査についていくつか疑問があったのですが
この本でそれが解消されました。
「津波で流された場所の下に遺体があるかもしれない。
もうちょっとだけ捜査を続けてはもらえないか。」
「津波の霊たち」にも似たようなシーンがありました。
それは震災以降、被害があった場所で幾度となく交わされた言葉なのでしょう。
それに彼は丁寧に答えていきます。

遺体を捜査して発見し、遺族に届ける。
普通の人ではできないことを彼は震災前から現在も続けています。
やさしく厳しくなければできないことです。
それに救われた人も多いと思います。
あとがきに「結局、何を伝えたいの?」と疑問をなげられたことが書かれていましたが
このように名前が表に出ないだけで、影で誰かのために働いてる人がいる。
それが今回は彼 吉田浩文氏ではないのでしょうか。
(彼以外にも被災地で影ながら奮闘された方はもちろん沢山います。
潜水士という特殊な仕事であったからこそ、今回はクローズアップされたのではと思います)

潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景

タイトル:潜匠 遺体引き上げダイバーの見た光景
著者:矢田 海里
出版社:柏書房
発売日:2021/2/15

【本日のサムネイル】
ダイビングをする人のイラスト(男性)
ウェットスーツ、フィン、マスク、レギュレーターなど
スキューバダイビングをするための器材を装着したダイバーのイラストです。

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