目の見えない方と美術館に行ったことはありますか。
そんなちょっと不思議なお話です。
どんなお話なの?
全盲の白鳥建二さん、
著者でありノンフィクション作家の川内有緒さん
著者のご友人で当時、水戸芸術館現代美術ギャラリーにて
教育プログラムコーディネーターをされていらっしゃった佐藤麻衣子さん
この三人が中心に
白鳥さんが気になる日本各地の美術館の展覧会を見に行く、
というものです。
その時々に、著者のご友人が増えたりもします。
目が見えない人ってどうやってアートを見るの?
展覧会は展示されている作品が多いです。
それらをすべては無理なので、
目のみえる人が選んだ絵を
白鳥さんに説明します。
マイティ:これ、アサリに見えない
12章冒頭
有緒:へ?
マイティ:アサリ、アサリ。塩抜きしてるとビヨーンって出てくるとこ。
有緒:アサリっていうと、小さく感じると思うんだけどすごく大きいんですよ。
ええと、セイウチ?泳いできたセイウチがちょっと疲れたぞ、みたいな。
マイティ:んー……ネコ?
有緒:ネコ?
これは塩谷良太「物腰(2015)」という立体作品をみての口頭での感想です。
アサリからネコに。
立体作品の場合、みてる角度がかわったり
絵画の場合、見てる場所や細部をみるか全体的にみるかでも印象が異なります。
Aとみていても同行者はBだったりCだったり
またその感想意見は目まぐるしく変化します。
白鳥さんはそれらを聞いて相づちや、質問を重ねます。
幼少期からほぼ目が見えていなかった白鳥さんは
具体的に話されても、自分なりの想像しかできません。
それはどんなものか誰も知ることはできません。
(目が見えていた期間がある人が障がいで見えなくなった場合、
その記憶から色など想像できるケースもあるそうです)
読んでみて
1970年代、目が見えない子どもに対してどんな教育をしていたのか
障がいがある人が社会に出るということ
優生思想について
障がい者の白鳥さんにがつんと本音でぶつかっても
白鳥さんは実にしなやかにかわすなあと思いました。
これに書かれていることの半分は
目の見えない白鳥さんとアートをみましょう、
見るってなんだろう?
もう半分は、その白鳥さんを通して
著者が障がいについて考えていく物語だと感じました。
なので途中中だるみもあります。
テンポもよくないです。
でも生きてるからそんな時もあるよね!といわんばかりの流れです。
最期あたりは完全に勢いで終わっておりライブ感があります。
「全盲の人と絵を見る」
だたそれだけのことなのに、ワークショップが開催されたり
映画になったり、インスピレーションを与えたり
こう本になったり
ご本人もマッサージ師やめて写真家(!!)になったり。
一人の人が動いただけでこんなに世界がかわるって
なんて素敵なことなんだろうなと思いました。
ちょっとの勇気で周囲もかわるって、
すごい奇跡ですよね。
【あらすじ】
見えない人と見るからこそ、見えてくる!
全盲の白鳥建二さんとアート作品を鑑賞することにより、
浮かびあがってくる社会や人間の真実、アートの力――。「白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ!」
という友人マイティの一言で、
「全盲の美術鑑賞者」とアートを巡るというユニークな旅が始まった。
白鳥さんや友人たちと絵画や仏像、現代美術を前に会話をしていると、
新しい世界の扉がどんどん開き、それまで見えていなかったことが見えてきた。
視覚や記憶の不思議、アートの意味、
生きること、障害を持つこと、一緒にいること。
そこに白鳥さんの人生、美術鑑賞をする理由などが織り込まれ、
壮大で温かい人間の物語が紡がれていく。
見えない人と一緒にアートを見る旅は、
私たちをどこに連れていってくれるのか。軽やかで明るい筆致の文章で、美術館めぐりの追体験を楽しみながら、
HonyaClub より
社会を考え、人間を考え、
自分自身を見つめ直すことができる、まったく新しいノンフィクション!
取り上げられている作品一覧
第1章 そこに美術館があったから
三菱一号美術館「フィリップス・コレクション展」より *ピエール・ボナール「犬を抱く女」 *ピエール・ボナール「棕櫚(しゅろ)の木」 *パブロ・ピカソ「闘牛」
第2章 マッサージ屋とレオナルド・ダ・ヴィンチの意外な共通点
水戸芸術館現代美術ギャラリー 「アートセンターをひらく 第1期」より *白鳥「白鳥建二のマッサージ室」
愛知県美術館 「エリザベス二世女王陛下コレクション レオナルド・ダヴィンチ人体解剖図展」より *レオナルド・ダヴィンチ「顔面と腕と手の解剖」
第3章 宇宙の星だって抗えないもの
国立新美術館 「クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime」より *「出発」 *「最後の時」 *「聖遺物箱(プリーム祭)」 *「発言する」 *「スピリット」 *「ぼた山」 *「白いモニュメント、来世」 ※すべてクリスチャン・ボルタンスキー作
第4章 ビルと飛行機、どこでもない風景
水戸芸術館現代美術ギャラリー「水戸アニュアル97 しなやかな共生」より *フェリック・ゴンザレス=トレス「無題(偽薬)」 *フェリック・ゴンザレス=トレス「無題(化学療法)」
水戸芸術館現代美術ギャラリー「大竹伸朗 ビル1978-2019」 *「8月、荷季活道」 *「エリック・サティ、香港」 *「ビルと飛行機、NY1」 *「ビルと飛行機、NY2」 ※すべて大竹伸朗、作
第5章 湖に見える原っぱってなんだ
*フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルの公園・陽のあたる芝生」 *アルフレッド・シスレー「オルヴァンヌ河岸の柳」 *カミーユ・ピサロ「ルーヴシエンヌ」 *ブランシュ・オシュデ「畑」 *クロード・モネ「洪水」
第6章 鬼の目に涙は光る
*エドワード・ホッパー「ナイトホークス」
興福寺より *法橋康弁「木造天燈鬼立像」(もくぞうてんとうきりゅうぞう) *法橋康弁「木造龍燈鬼立像」(もくぞうりゅうとうきりゅうぞう) *成朝ほか「木造千手観音菩薩立像」
第7章荒野をゆく人々
はじまりの美術館「わくわくなおもわく」より *折元立身「タイヤチューブコミュニケーション 母と近所の人たち」 *折元立身「アート・ママ+息子」 *NPO法人スウィング「GOMI KORORI」 *NPO法人スウィング「京都人力交通案内 アナタの行き先、教えます。」 *酒井美穂子「サッポロ一番しょうゆ味」 *橋本克己「未確認迷惑物体-愛と闘いの日々(橋本克己絵日記シリーズ)」 *橋本克己「街への贈り物(橋本克己絵日記シリーズ)」
第8章 読み返すことのない日記
*ヂョン・ヨンドゥ「マジシャンの散歩」
第9章 みんなどこへ行った?
黒部市美術館「風間サチコ展 コンクリート組曲」より
*「ディズリンピック2680」
*「ダイナマイトは創造の父」
*「ゲートピアNo.3」
※すべて風間サチコ、作
第10章 自宅発、オルセー美術館ゆき
なし
第11章 ただ夢を見るために
マリーナ・アブラモヴィッチ「夢の家」
第12章 白い鳥がいる湖
茨城県近代美術館「6つの個展 2020」より *塩谷良太「物腰(2015)」
著者:川内有緒
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2021/9/3
【本日のサムネイル】
絵を見る女性のイラスト「美術館で絵画鑑賞」
綺麗な花の絵を鑑賞している女性のイラストです。
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