【初回公開:2020/09/04 (Fri) 17:22】
10数年前に知人のお父様が会社の旅行中に亡くなったとの連絡があり、葬儀に出席しました。
旅行先は北海道。
中堅建設会社の社長さんで、お取引先様とのゴルフのプレー中に
急に倒れて帰らぬ人となったそうです。
知人には「顔みせてあげることができないからここで帰ってほしい」と
受付の脇に設えてあった小さな祭壇前で言われてそのまま帰宅し。
ふと「顔みせられないってなんでなんだろう?」そう思いました。
この本は国外で事故や病気で亡くなった方をその親族に送り届ける「送還士」について書かれたものです。
事故や事件が起きた。親族や関係者が身元を確認し、そのあとどうやって日本にご遺体を移動するか。
その細かな手続きから、日本に到着してからエンバーミング処理を行い、遺族のもとに届ける。
これが仕事の内容です。
飛行機での移動中に気圧の関係で、怪我をしていた部分から体液が流れたり、
外国で行われた処置の技術の問題からご遺体が変色していたり、
また場所によっては感染症の蔓延を防ぐことも目的とされる
それらのご遺体に対する処置、修復が「エンバーミング」です。
先ほどの知人のお父様のお顔を見れなかったのはこれが施されていなかったのだなと
いまならわかります。
まるで眠っているかのように修復し、送り届ける。
家で待っている遺族は不安な気持ちでご遺体が、家族が帰ってくるのを待っている。
そのために彼らは一切の妥協をしません。
ご遺体が入っている棺にファイルなど置かない。
この世に一体しかないのだから傷つけないように、丁寧に運転する。
(車で移動中に棺の中でご遺体はかなり移動するそうです)
顔が陥没してしまったり、一部が失われていてもパスポートの写真を観察し
修復材を用いて成形し、化粧を施す。
顔が固まっていたら静かにもみほぐし、笑顔にする。
何を書いても、伝わる気がしないです。
とにかくプロしかいないのです。
四苦八苦して、学んで失敗してきた経験があるからこそ成り立ってる仕事だと思います。
空港は旅行に行く人帰ってきた人であふれている場所で
その片隅に、無言の帰りをした人がいる。
そのひとを送り届けるために身支度を施す。
家族が最後にみるその姿が、記憶に残るように。
やさしい仕事でかつ、忘れられてしまう仕事。
それを丁寧に確実に行う人たちがいる。
本来なら彼らが活躍しないほうがいいのですが、
このような仕事があること、それに携わってる人がいることを知れてよかったです。
著者:佐々 涼子
出版社:集英社
発売日 : 2014/11/25
【本日のサムネイル】
空港・飛行場のイラスト
空港に飛行機が着陸しているイラストです。
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