【「命の閉じ方」をレッスンする】エンド・オブ・ライフ

ノンフィクション

エンジェルフライト」で圧倒的筆力でぐいぐい読ませてくれた著者の本です。
前作は、海外で亡くなった方の遺体が空港に届いてから
エバーミングして送り出す会社のお話でしたが
今回は終末期の在宅医療の訪問看護士(男性)ががんになったことから始まります。
彼が所属し、担当していた患者さんや
終末期を在宅で過ごした方々の物語でもあります。
(2013~2019年までの7年間の出来事です)


著者ははからずしも「死」にまつわる取材が多く、メンタルを壊していた時期もあったと
本書の冒頭にありました。
どの本も、向かい方がとにかく丁寧です。
「死」を扱うというよりも、「人」と丁寧に真摯に向き合っています。
そして人々の言葉をだまって「傾聴する」。
意外とできるようでできない「人の話を聞くこと」。
その言葉を尊重し
(思った以上に顔に気持ちが出やすいのでそれにも気をつけつつ)
時にはあいづちをうつ。
それは想像以上に大変とおもいます。

看護士に助けてもらいながら特別な1日を過ごせた人。
ときに200km超先への潮干狩りに同行、ディズニーランドにも同行。
看護士だけではなく、酸素ボンベなど必要なものも積み込んで患者さんたちの車の後ろから
自分らの車で追随。
ボンベが足りないなら業者に連絡し、目的地まで持ってきてもらう。
「やりすぎでは?」と思うようなシーンもありますが、
彼はひとりひとりの患者さんがしたいこと、やりのこしていたことが出来るように
その難関を乗り越える。
そしてただ寄り添う。
誰しもが彼を頼り、病院のスタッフからも大切にされていた。
その彼が患者になった時、その姿は消えます。
「がんに、病になったことがない人は私たちの気持ちはわからない」
かつて患者さんに言われた言葉を、彼は著者に投げかけます。

この作中に著者の母の最期のことも書かれています。
60はじめに難病になった母を父は丁寧に介護していました。
ある日急遽入院した時に、
母が一人のひととして介護されていない現状を目の当たりにします。
憤る著者に、父は静かに母を見守ります。
病室に誰もいなくなった時に母の顔を丁寧に拭き、たんを吸入する。
それを看護婦は「余計なことをするな」と何度も責めたてます。
そんなことが続いたある日、父は激昂するのです。
「これじゃあんまりじゃないですか!」
ケアをされずに無理やり鼻にチューブを入れられたことで鼻血がでて固まり
腕には青あざ、前歯は折れていました。
病院内暴力が行われていたわけではない。
忙しすぎておざなりになった結果こうなったということ。
人が足りずに忙しい。
それを言い訳にしておざなりにしていいのでしょうか。



人はよく在宅介護は大変といいます。
それはケースバイケースであって、
著者の母のように在宅の方がより幸せということもあるでしょう。
在宅で幸せな終末を過ごす一方で、
その病との戦いに向き合えず自ら命をたってしまった人、
自暴自棄になってしまった人。
この一冊だけでも実に様々なケースが書かれていました。
そして冒頭の彼が患者となって変わっていき、そして最期を迎える時
なぜ彼が著者を読んだのかが明かされます。
沢山の人を送り、それが自分のことになったときどうするか。
医療は、残された時間をどう過ごすか。
自らの死をどうプロデュースするか。
それらを医師と家族と話す。
「自分の死をどうするか」を自らが決めるが、当たり前の時代になったのだなと感じました。


エンド・オブ・ライフ (集英社インターナショナル)

著者:佐々涼子
出版社:集英社
発売日:2020/2/10



【本日のサムネイル】
訪問看護・訪問介護のイラスト(男性)
お年寄りの住宅へ訪問して、
男性の医師(看護師・介護士)が診療や介護をしているイラストです。

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