日本国籍を有する満十八歳以上、三十一歳に満たない男子すべてに、
表紙より引用
最大二十四カ月間「女」になる義務を課す制度。
二〇九二年、国民投票により可決され、翌年より施行。
真っ赤な表紙に上記の文字が印刷されています。
こんな法律が施行されている世界でのおはなしです。
こんなおはなしです
女性のみが発症し、
若年層ほど死亡率の高い悪性インフルエンザが日本国内で大流行。
10~20代女性の85%が亡くなった。
そんななか、性別を変える技術が成功し
上記のような法律が施行されました。
ショウマ、ハルト、タケル、キミユキ、イズミ
五人の男性の物語です。
ショウマの場合
アキタで祖父、母、エリカちゃんと兼業農家をしているショウマ。
このままここで生きていていいのか?
妙なあせりを日々感じてたことで、
微産制、通称「産役」を志願する。
だが実際女になってみて、思ったようにいかない日々をおくることになる。
表紙などに世界観やその法律についての記載はありますが
あらすじらしきものは書いてないので
このショウマの章でこの世界が徐々に知らされていきます。
「産役」になった二年のうち子どもを身ごもるとその役目を終えます。
そのままパートナーと結婚生活もできますが
男性に戻ることもできます。
身ごもらなかった場合その期間が過ぎれば男性に戻ることもできるが
それは屈辱的なことのようです。
見た目がごついまま女性になってしまったショウマは
偏見にさらされますが、最終的にとある男性との子どもを身ごもります。
ショウマの家族は彼が地元に戻ることを当たり前だと思っています。
でもショウマの中には男性と都会で子どもと三人で暮らしたい…
ハルトの場合
エリート官僚のハルトは女性になるのは嫌だったけれど
将来政治家を志していたので、その野望のステップとして「産役」に志願します。
女性となり、産教センターで産事訓練を受け
女性としてのしぐさなどを学んだあと、男性とパートナーになり
妊娠、出産し、政治家へ…ともくろんでいました。
ですがパートナーとなった男性とは子どもが授からず、
ノイローゼ状態となり自殺をしようとします。
その時に出会った元男性の友人に連れていかれたお店。
そこは一般的に女性らしくない「産役」があつまる場所でした。
そこでハルトは一人の「産役」にメイクをします。
お店の仲間と知り合ったことで再び元気になったハルトの前に
産教センターで産事訓練を受けた仲間が連絡をしてきますが…
タケルの場合
タケルは妻と母を悪性インフルエンザで亡くしました。
それ以降なんとなく覇気のないタケルでしたが
フリースクールの手伝いをしていた時に出会ったシンタロウが
「産役」から逃れようとキタチョウセンに向かおうとしてることを知り
その手伝いをしてしまいます。
警察に捕まってしまったタケルは五年間の「産役」につくことになります。
女性となった後につれていかれた産教センターは
「逃産男」産役から逃げた男性のみが集められた場所でした。
そこで管理者から嫌がらせを受け、その果てに寒村に赴任させられます。
トラブルに巻き込まれて拉致されたタケルは売春店に連れてこられます。
狭い部屋で毎日男たちに、暴力を受け強姦されます。
そこから逃げることもできず、自分の人生を見つめるタケルは
変な音に気づきます…
キミユキの場合
既婚男性は課せられない「産役」ですが
志願すると国からお金がもらえます。
父親が脳梗塞となり右半身まひとなってしまい、
そのうえ元気だった時のギャンブルの借金が発覚します。
それを解消しようとキミユキは妻が大反対しますが「産役」を志願します。
女性となったキミユキはかつてお世話になった先輩と
仮のパートナー契約をし、父親の介護に向かいます。
女性となったことを保育園児の娘は受け入れますが
相変わらず妻は怒っています。
それでもキミユキは介護をし娘の送り迎えをし、家事をします。
父親が女性となったキミユキの着替えやお風呂をのぞいたりが続き
そんな彼が頼ったのは娘のママ友でした。
イズミの場合
女性となったことで、理想の顔や身体に整形をしたイズミ。
昔から知り合いだったハヤシ氏と会社を立ち上げることに。
そのハヤシ氏に事業戦略部長として紹介されたのは
女性となった昔のクラスメイトだったマルオでした。
意見が真逆な二人はことあるごとに対立します。
ハヤシ氏はどちらかを支持することなく
イズミにとある指示をします。
イズミは幼少期顔の皮膚が垂れ下がる病気となりました。
そのせいでだれも友達もいません。
姉にも拒絶され「だれもあなたを愛さない」とまで言われます。
母も姉も悪性インフルエンザで亡くし
イズミは「産役」を志願し、女性となり整形したのでした。
ですがイズミの心は
幼少期からかわらない小さな男の子のままだったのです。
読んでみて
女性が少ない世界なので、このような法律ができたわけですが
女性の代用品だったり、
お金持ちや地位のある人向けだったりで
なんだかもやもやします。
またキミユキの場合では、
女性がどのような生活をしてるかが書かれています。
「地元に戻るか」
「LGBT」
「どこまで人を信じるか」
「性別の役割とは」
「見た目の美醜」
「暴力を受けている女性がどうやって自立するか」
「結婚と家族のかたち」
読んでいると各章にさまざまな現代の問題が書かれています。
最期の「イズミの場合」、
最期のページではただ単に女性の代用としてこの法律ができたわけではない、
本当の理由が書かれています。
国が決めたことは絶対であり従う。
産疫で産まれた子どもたちは基本的に国の施設で育ちます。
そこで育っている子どもたちにはそういう教育を施している。
そういう国民を増やしたかったのでは?
そう終わっています。
フィクションだから、では笑えないことです。
ここ数年納得いかないようなことをする政治家が増え
投票率も低い状態です。
そういう状況だからこそ、最後の一ページに重みを感じました。
著者:田中子
出版社:新潮社
発売日:2018/3/22
【本日のサムネイル】
妊婦さんのマーク
妊娠している女性をデフォルメした、妊婦さんのマークです。
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