【ラブホテルと人生】ホテルローヤル

文芸

大きな賞を受賞された際に、実家がかつてラブホテルを経営していたこと

その時の経験がもとになってるということで話題になった本書、

この度、映画化ということで読んでみました。

内容は7つの短編からなっておりまして、そこにほぼ必ずホテルローヤルがかかわっていたり、

舞台となってます。

・シャッターチャンス

「お付き合いしていた男性にそそのかされて、廃墟となったラブホテルでヌードになって

いいように撮影される女性の話」

と書くと身も蓋もないのですが。

アイスホッケーチームに所属していたが怪我が原因で引退し、地元のスーパーで宅配のトラック運転手をしていた男の挫折感と、その挫折を認めたくない、認めてないのは自分だけという現実と

もっとうまくやれた、こんなはずじゃなかったという思いがなんとなくわかる。

高校卒業後スーパーで経理をしていた女が同級生だったホッケー男と再会してつきあって、

はっきりとは書かれていないが女は男と結婚したかったのだろうなと思う。

同じ職場でのお付き合いで、おばちゃんたちの噂のリアリティを思うと、30も過ぎた彼女はずっと結婚したかった。

だからこんな男の馬鹿な願いを断れなかったのだと思う。

妙なリアリティが怖い。

あとラブホテルの廃墟感もなんだかわかるのも。

帰り道の車内で「親と会ってほしい」とかよく言うよなこの男…というところまで

本当に存在しそうなカップルでした。

撮影しに行った廃ホテルが「ホテルローヤル」でした。

・本日開店

「男に騙されて身ぐるみはがされお世話になったお寺さんに息子と結婚してって言われたので結婚したら、檀家さんと性交しておかねもらうことになった」

全く救いがないようにみえて、この女性的には救われてたんですよね途中まで。

養護施設で育って里親に選ばれる寸前で容姿で選ばれず、看護助手で貯めたお金は近寄ってきた男にだまされて持ち去られ、貧乏ではあるけれどお寺さんの息子と結婚。

やっとはじめて居場所ができたことに安堵したことでしょう。

お寺さんの住職であるお父さんが亡くなって、旦那さんが住職となって檀家さんが離れるようになると

とある檀家さん数人からお金と引き換えに色事を申し出される。

檀家さんがいないとお寺は成り立たない。ということで女性はそれを行うことに。

最初はこれ旦那さんである住職は知らないのだと思ってましたが、受け取ったお金を置いたら翌日は消えてる。

つまり住職は合意ということですよね。

そもそも住職とは年が離れていて性交ができない。

ならば、という気持ちが住職にもあったのかもしれませんが。

この秘密の関係を続けていた檀家さんグループの一人が亡くなって、それを息子に継いだ。

それまでだたの奉仕作業だったのが、快楽になってしまった。

いつも翌日になったら消えていたお金がこの檀家息子の時はそのまま。

挙句に「接待として取引先の方が自分の代わりにくる」とか檀家息子が言いだした。

地獄ですわ…お金がそのままということは「住職が自分が快楽におぼれていることを知ってる」

になってるところとか、もうなんというか昼ドラか!!(ほめてます)

最後にこの檀家息子が無理やり渡してきた遺骨が、ホテルローヤルの経営者のものだったということで

経営者だった大吉の最後が書かれています。

・えっち屋

ホテルローヤルの経営者 大吉の娘の雅代が主人公になるこの話。

「親がほったらかしにしてたラブホテルを高校卒業から経営してたけど無理心中されて客も来ないからもう畳むことにしたので、客室にあった自動販売機の商品を問屋に引き取りにきてもらった」

おやー!!!

しっかりしろー!!

母親が高校卒業と同時に間男と家を出てからひとりでラブホテルを経営する。

本当にこんなことができるんだろうか?とも思ったけど、その前から手伝ってたらなんとかなるよねえ。

と経営してたら心中事件が起きた。彼女が第一発見者というのもヘビーすぎる。

そしたらあれよあれよと閑古鳥。でしょうねえ。

自販機にて販売していた玩具を引き取りにきた問屋もこれまたクセのある男で

奥さんが病的にパソコン・メールをチェックし、連絡させる徹底ぶり。

なぜそうなったかのエピソードは割愛しますが、奥さんの気持ちもわからんくはない…

心中があった現場で迫る雅代のシーンはぐっときますが、結局セックスしないまま問屋と別れるあたりはこの作品の良心ではないでしょうか。

雅代、幸せになっておくれ…

・バブルバス

「義理の母が亡くなったと思ったら、団地に義父が転がり込んできて旦那も妻もせまっ苦しい場所で寝てて、旦那は仕事で疲弊しきってるし、娘は登校拒否だしお金はないし、どうしよう」

リアリティの塊。

ほんとこの本読んでて何度「めちゃくちゃリアルじゃね?」って思ったことか。

特にこの話はすごい。

話はこの義理の母の新盆から始まります。

2話の「本日開店」で出てきた住職が約束すっぽかします。

「おおーい!頑張れよ住職ぅぅぅ!!」と読んだ人全員ツッコミ入れたところだと思います。

頑張ってまじ頑張って。お前こんなんだから嫁が檀家に体売ってんだろ…

すっぽかされた夫婦が、住職に渡すはずだったお金でラブホテルに入ります。

義父が転がり込んできたため、娘のベッド横の狭い床で寝てる二人は

急なこの時間を満喫します。

このラブホテルに入るきっかけになった奥さんのセリフがすごい。

ラブホテル内での描写、会話、やりとりもすごい。

ただただすごくわかるし、みてきたの?って何度も思ったくらい。

後半で義父が亡くなって、年末にいう妻のセリフ。

これがまたぐっときます。

今の時代なんでか子供中心になってしまって、お父さんの書斎を作るなら子供部屋にするのが当たり前で親が犠牲になるのが美徳なのかな?と疑問に思います。

子どもがかわいくないわけではないけれど、たまのラブホテルでの夫婦の二時間で頑張れる人がいるのもまた現実なのかもしれません。

・せんせぇ

「上司に薦められて結婚した女性がJKから上司の愛人だったことが発覚した単身赴任の僕が自宅に帰ろうとしたら教え子のJKにつきまとわれて、やっと自宅に帰ったら妻と上司が仲良く自宅に入っていったんですがどうしたらいいですか」

もうね、弁護士つけて離婚だよ!!とっとと離婚しなよ!!案件。

この本のなかでは一番のファンタジー枠ですが、冷静になるとこれまた地獄なので現実的に考えるのはよしましょう。

しかし設定がすげえな。JKのころから愛人、でその愛人との結婚薦めてくるって。

めちゃくちゃなめられてる主人公がんばれ。

その単身赴任先から帰る電車に無理やり乗ってきたのが教え子のJK。

そう主人公は高校の数学教師なのでした。

その教え子、母親が父の弟と蒸発、弟の借金の保証人になってた父も蒸発、学校から帰ったら家の中の家財道具が一切なかったので、どうしようかなと駅に行ったら先生がいたのでくっついてきちゃった★

まあこのJKの設定もひどい。なんで臭いんだろう…ブーツもコートも臭いってそれで木古内から札幌までってひどくね??

だいたい6時間くさいJKと一緒ってすごいな。

で、自宅マンション前で妻が上司である男と一緒にタクシーから降りてきて一緒に入っていくところをみてしまうわけです。

帰らなきゃよかったのにー!!

結局ふたりは翌日釧路行きのJRに乗るのでした。

この話だけラブホテルもホテルローヤルもでてこないのでした。

いいからはよ離婚しなねー!!

と思ったのですが。

この教師とJKの組み合わせって「えっち屋」で心中した二人ってことになるのだろうか?

だとしたらしんどいなあ…

・星を見ていた

「年下の夫が働かないので老体にムチうってラブホテルで働いてたら息子が殺人事件の容疑者になってたのでかなしくなって山中でぼんやりしてたら夫がむかえにきてくれた」

ほんとーにダメ。

ミコがもうダメ。

思考停止して生きてる。

旧世代の人間すぎてダメでした。

ラブホテルの掃除やリネンの用意をしてたりで夜11時まで働く。

ラブホテルのスタッフの仕事ってこんなにあるのか…すげえハードだわ。

ラブホテルは山の上にあるので懐中電灯の明かりしかない暗闇を歩く。

帰ったら夫が五右衛門風呂の用意をしてるので一緒に入り、布団で股を開く。

その繰り返し。

ミコは考えない。過去に母親に言われたことを信じてそれを愚直に守る。

考えないからものを知らない。聞いてもすぐ忘れてまた聞くタイプだなこりゃ。

息子が殺人事件の容疑者と報道されてもピンとこない。

ピンとこないのはなんとなく理解できるが

「息子はいつあんなに大きくなったのだろうか」

そうじゃねー!!そうじゃねえんだよ…

我慢するのが美徳みたいなのは好きじゃないし

考えないで愚直なのはどうなのかな。

全く共感できない…

・ギフト

「ラブホテル作ろうとしたら妻が子供と実家に帰ったし、愛人が妊娠したらしいので一緒にラブホテル経営することにしたわ。俺最高!!!!」

俺Sugeeeee!!!な話で、ホテルローヤルの経営者である大吉が主人公です。

愛人がるり子、その娘が雅代となります。

雅代が産まれる前のふたりのなれそめの話です。

この大吉のおかしいところは、ラブホテルの経営をしたい、妻と子供と愛人とその子供全員はっぴーにする!

とおもってるあたりです。

なぜ妻の父が怒ってるか理解できない男が全員ハッピーになんかできるわけないじゃん?

るり子の身の上が可哀そうなのはわかりますが、この時のるり子もまた思考停止状態で

へらへら~なんですよね。そういう時代なのか貧しさがそうしたのか…

それを不憫に思っていろいろする大吉よ、なぜそれを妻と子供にしてやらないのだ。

箱入りみかんのくだりの、こうね、腹の底が冷える感じと

「エンペラーよりもシャトーよりも格好いいだろう」と宣言する高揚感。

70年代の雰囲気だなあと思いました。

読んでみて

映画のサイトをみたところ、設定が大幅に変更されていて

「これは小説のいいところどうなるの?」と思ってます。

この本のすごいところは、圧倒的なリアリティです。

田舎特有あるあるから、貧乏ゆえの腹の底が冷えるような感覚まで

よくここまで濃縮して表現したなあと感嘆です。

タイトル:ホテルローヤル
著者:桜木紫乃
出版社:集英社

ホテルローヤル (集英社文庫)

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