著者は朝日新聞のアメリカ総局員だった期間(2011~2014年)に
取材をしたものをまとめたものとなっています。
アメリカを中心に海外の遺伝子研究と日本の現状が書かれています。
第一章:「究極の個人情報」の価値と値段
エーアイバイオテック社では子供の頬の粘膜を送ると、
筋肉や代謝に関する遺伝子の解析から独自に開発された「パワー」「持久力」などに関する点数が10点満点で表示されるサービスを行っていました。
「子供にとってもっともふさわしいスポーツや練習法を見つけ出すのに最適です」とうたわれたこのサービスは現在は行われていません。
わずか七つの遺伝子をもって適性を判断していたそうで、それで適性は本当に正しかったのでしょうか?
思った以上に販売が伸びなかったという理由であっさりサービスは終了になり、またおなじような遺伝子解析サービスは多数あるそうです。
現在日本でも検索すると遺伝子解析サービスをみることができます。
Amazonで遺伝子サービスキットが買える時代になってます。
第二章:遺伝子はだれのものか
この章では「ミリアド裁判」について書かれています。
ミリアド社は1997年以降、乳がんや卵巣がんのリスク遺伝子であるBRCA1とBRCA2の遺伝子配列や遺伝子検査の方法などについて、複数の特許を取得してきました。
同社は両がんの遺伝子検査市場を独占したばかりか、医師や保険会社、カウンセラーなどに検査の必要性を教育し、BRCA遺伝子変異リスクの少ない女性も含めて、すべての女性を対象に検査を受けるよう推進しました。
(ダイヤモンドオンラインより)
第三章:裏切る遺伝子
遺伝子組み換えされた、殺虫トウモロコシ。
本来でしたら99年耐性虫が出現しないはずでしたが、実際は10年足らずで出現してしまいました。
愛情をかけて育てともに生活していたペットが亡くなった際、その遺伝子からクローンを作りませんか?というサービス。わずか二年で市場撤退となりました。
そのほかにも著者の飼育していたラットのエピソードや、三毛猫の毛皮の色について、マウスの遺伝子研究について書かれています。
比較的身近なものでも遺伝子がかかわっているという例が多いです。
第四章:天才遺伝子を探せ
中国の遺伝子解析会社BGIが天才の子供を産みだすプロジェクトを行っており
それに関わったとされる准教授の取材について書かれています。
中国でもアメリカ同様子供向け遺伝子解析サービスを行っており
とある会社では小学五年生まで受けることを推奨してるようです。
第五章:人はいつ人になるのか
アメリカでは州によって人工妊娠中絶が禁止されています。
理由はいろいろありますが「ヒトだから」と禁止されているようで
「じゃあどこからが「ヒト」なのか?」が論争になっています。
受精卵になったその瞬間か、その胎児の心臓が動いたらか?
個人的に疑問なのは「性暴力など望まない妊娠をした」というケース。
その場合でも緊急避妊薬をつかうならば「命をうばう」となってること。
うまれたての命を重要視するのはいいけれど、女性の精神もしくは命はどうでもいいのだろうか…
第六章:「ジーンリッチ階級」は誕生するのか
着床前診断の受精卵の時点で男女の産み分けをして、さらにこの時点で将来乳がんに罹患するリスクを調べられるそうです。
さらに「赤ちゃんの目の色、髪の色を調べるサービス」のビジネスもあります。
日本のような流産リスクを回避するためではなく、親たちのための遺伝子解析サービスをよしとしてる国があるのです。
第七章:妊婦たちの選択
「新型出生前検査」を用いればおなかに針を刺さず、染色体異常だけでなく性別もわかるそうです。
妊娠のより早い時期に判定できるので希望している性別の胎児でない場合人工妊娠中絶も行われるとのこと。
リスクの少ない妊婦の間でも広まっており、染色体異常が見つかったときは「予防」となり人工妊娠中絶を選ぶことが増えている。
このままだと深刻ではない障害にまで「予防」が」広がってしまいかねないと警鐘を鳴らしています。
なお日本で出生前検査で染色体異常が見つかった際の人工妊娠中絶を行う率は99%だそうです。
第八章:人間の「質」に介入する時代
アメリカのように日本でも優秀な遺伝子、受精卵が欲しいと思ってる人は多く他人事ではありません。
気軽に個人で遺伝子解析サービスをうけるのが当たり前の時代はすぐかもしれません。
遺伝子解析にて犯罪係数が高いなどがわかるようになったら、犯罪を犯した人の刑は軽くなるのでしょうか?
まとめ
各章をまとめながら読み返してると、人間の欲の深さにただただ驚愕するばかりです。
自分の思う通りの子供が欲しい。なんのリスクもなく、能力も備わっている遺伝子から生まれたのはラッキーなのでしょうか。
元アスリートの為末大さんは2013年にこうTwitterに書いていました。
「アスリートもまずその体に生まれるかどうかで99%。そして選ばれた人たちが努力を語る。やればできると成功者は言うけれど、できる体に生まれることが大前提」
本書でこの文章を見た時なんとも言えない気持ちになりました。
遺伝子は自分だけの問題ではなく、自分の祖先から受け継いできたものです。
それをどう考えるかの時代はとっくにきているのかもしれません。
興味があったら読んでみてくださいね。
【よだん】新聞社から出てる科学系の本はかみくだいてかいてあることが多く
また出典がはっきりしてるのでお薦めです。
まず読んでみてもっと掘り下げたいなと思ったらその出典の本を読んでみると面白いです。
タイトル:IQは金で買えるのか 世界遺伝子研究最前線
著者:行方史郎
出版社:朝日新聞出版社
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