選べなかった命 出生前検診の誤診で生まれた子

ノンフィクション

サブタイトルの「出生前検診の誤診で生まれた子」が内容のすべてなんですが。
今年いちばん重い本でした。
大事な内容なんですが、誰も悪くないだけにせつない本です。

その女性は、出生前診断をうけて、「異常なし」と
医師から伝えられたが、生まれてきた子はダウン症だった。
函館で医者と医院を提訴した彼女に会わなければならない。
裁判の過程で見えてきたのは、そもそも
現在の母体保護法では、障害を理由にした中絶は
認められていないことだった。
ダウン症の子と共に生きる家族、
ダウン症でありながら大学に行った女性、
家族に委ねられた選別に苦しむ助産師。
多くの当事者の声に耳を傾けながら
選ぶことの是非を考える。

上記があらすじになります。
ちょっとわかりにくいのでざっくりかくとこのようになります。

「出生前検診を受けたところ異常なしといわれて安心して出産したら
ダウン症の子どもが生まれてしまった。
生後間もなく亡くなってしまった子どものために夫婦は裁判を起こすことにした。
この本はその夫婦に取材して書かれた本です。」


この本のすごいところはこの裁判に関することだけでなく
さまざまなケースの障がい児を産み育てている人にも取材をしたことだと思います。

注意

ナイーブな内容を取り扱っております。
以下は自己判断での閲覧でお願いいたします。




















「第七章 ずるさの意味」 に取り上げられているのは
羊水検査を受けれずにダウン症の子どもを産んでしまった女性です。
産まれた子どもをどうしても受け入れられず、里親に養育を頼むことに。
その養育されている里親の元にも取材を行っています。
ダウン症の里子でも実子と同じように育てる。
実子たちもかわいがっていることに、
私たちは「ダウン症というイメージに踊らされているだけでは?」という疑問を感じました。
ダウン症=かわいそう、うごけないとはだれが勝手に決めたのでしょうか。


また「第八章 二十年後の家族」では
二十年以上前にあったダウン症児の出産をめぐる裁判。
その裁判をおこした夫妻と本人に取材を行っています。
「ダウン症であることを羊水検査にてわかったら中絶していた」と訴えた夫妻は
その娘さんを溺愛している。
裁判の内容が内容だけに「なぜ?」という気持ちがぬぐえないですが、
件の訴えをおこした女性が最初の章でいっていた
「産まれてきてあってしまったから。かけがえのない子だから」
それに尽きると思います。
この夫妻も同様のことを言っています。



「第十章 無脳症の男児を出産」は上記二家族とはケースが異なります。
無脳症により「確実に数日も生きられないことがわかっていて出産をした」のです。
産まれてすぐに子を胸に抱き、バースデーケーキでお祝いをし、
夫の希望で洗礼も行いました。
このことについて夫妻の妻の言葉が衝撃的でした。
「この選択ができたのは、どうやっても助かる見込みがなかったから」
もし重い障がいを背負うけれど生き続けられる命だったら産む選択はしなかったかもしれない。
子どもの将来、医療の負担、自分たちの死後どうなるのか…
だれしも簡単に出せない答えを出せない自分自身を「卑怯」というのは
本当に卑怯なんでしょうか…

「第十三章 NIPTと強制不妊」では優生保護法で強制的に不妊手術をさせられた方に取材をされています。
ここまでするかー…と思い、ふと著者の経歴を読むと「セックスボランティア」を書かれた方でした。
(障がい者のセックスを掘り下げて取材されて書かれた本。取材力がすごい以外出てこない)

セックスボランティア(新潮文庫)






「第十五章 そしてダウン症の子は」は
ダウン症当事者としてはじめて大学を卒業した女性に取材されています。
ダウン症が話題になる時、中絶が一緒に取り上げられることに傷つく人たちがいます。
出生前検診は、障害が見つかったら中絶ありきの検査と思われていますが
実際法律ではその理由で中絶を行うことができません。
かぎりなくグレーな行為なのです。
それを踏まえたうえで女性はこういっています。
「生まれてきてよかった。産んでくれてありがとう」
「件の亡くなってしまった赤ちゃんがかわいそう。赤ちゃんをなくしたお母さんがかわいそう」





不可解といいますか
理解しがたいのがこの子どもを取り上げた医師が
「早く弁護士をみつけて裁判を行ってください」といったことです。
医師の妻は「風評被害が広まると困る」と示談を言ってきてます。
生まれた子どもが生きているときは
「何でもします」という態度と言葉が
亡くなったとたん真逆の対応やお悔やみすら言わないなど
納得いかない行動があります。
(裁判で争う以上本来は接触を控えるべきなので仕方がないことなのかもしれません)
それでも夫妻が裁判で勝ったあとも一切謝罪がない。
医師からの謝罪はなかったけれど
大学を卒業された女性が言った言葉は夫婦には伝わっていると思います。

出生前診断を「神の手」と比喩した方もいますが
諸外国では金持ちだけがこれを受けれるのはおかしいという人もいます。
「ヒトが子どもを産む」
幸せなはずなのに、難しく悲しいことだと感じました。
「五体満足で生まれてきてほしい」と願う気持ちも
「障がいのあるわが子が自分の死後どうやっていきるのだろう」と将来を思う気持ち
中絶をやむを得ずに選んでしまったことで一生背負うであろう気持ち
でも成長したわが子と
「なんとかなった、なってるよ」と笑ってる人もいる。
どれも間違っていないとは、思いますし
正解もないと思います。

タイトル:選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子
著者:河合 香織
出版社:文藝春秋

選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子


【本日のサムネイル】
出産のイラスト
汗だくになって出産中の女性と助産師さん、それを応援する旦那さんのイラストです。



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