安楽死を遂げるまで

ノンフィクション

おもいけど、だいじなだいじなはなし

重い問題ですが、世界各国の安楽死について詳細が書かれている本は
今はいろいろ出版されていますが、この本が出版された当時は珍しかったです。
(発売当時読んだのですが今回読み返ししました)
とても丁寧に取材をされて書かれています。
センシティブな問題ですので淡々と書かれている文章がありがたいです。

プロローグ、目次のあとに
世界地図とともに
「本書で紹介する国々の安楽死事情」がまとめられています。

第一章 スイス
認められてる手段:自殺幇助
運用面:原則として自殺幇助団体の会員のみ。
    その上で医師二人が診断。
    実施後は警察が現場を捜査する。
特記事項:団体によってルールや法律順守が曖昧。
    終末期ではない患者の幇助も行われる。
    条件を満たせば、医師以外の者も患者を幇助できる。
    なお、会員登録すれば外国人でも適用可能。

第二章 オランダ
認められている手段:積極的安楽死、自殺幇助
運用面:医師二人の診断。
    医師は処置後、報告書を作成して地域審査委員会に提出することが義務。
    違反があった場合、当局に通知される
特記事項:ホームドクター制が浸透しており、安楽死にあたって判断を仰がなければならない。
    対象年齢は12歳から。
    認知症患者や夫婦そろっての安楽死など、対象者の範囲が広がっている。

第三章 ベルギー
認められている手段:積極的安楽死
運用面:医師二人以上の診断が必要。
    処置後の流れはオランダと類似しているが、チェック機能はオランダより緩い。
特記事項:肉体的苦痛だけでなく、精神的苦痛を伴う患者の安楽死も可能。
    2014年以降、年齢制限がなくなった。
    外国人も黙認されている。

第四章 米国オレゴン州
認められている手段:自殺幇助(現地では「尊厳死」と呼ぶ)
運用面:医師二人以上の診断が必要。
    「余命六ヶ月以内」と診断された上で、医師が致死薬を処方する。
特記事項:医師が患者の最期を看取る義務はない。
    18歳以上の州民に限る。
    全米では5州及びワシントンD.Cで合法(2017年時点)
    (ワシントン州、オレゴン州、カルフォルニア州、バーモンド州、コロラド州)
    他州もオレゴン州をモデルに運用。

第五章 スペイン
宗教的価値観(カトリック)から安楽死全般への反対は根強いが、
一部の自治州で終末期のセデーションに関しては合法化の動きが進んでいる。

第六章 日本
終末期患者の延命中止(消極的安楽死)やセデーションは医療現場で実践されているが、
法整備はなされていない。
積極的安楽死や自殺幇助は違法。
過去、医師が刑法に問われた「安楽死事件」が何度か発生している。

この本で(ほぼメイン)取り上げられているスイスの自殺幇助団体「ライフサークル」
この団体の代表であるプライシック氏に著者が取材を申し込み、
ライフサークルだけでなく、各国の事例を調べ、それにまつわる方々にインタビューを行い
そしてまたプライシック氏と話し合う、という流れです。

この本にはずっと死の重く暗い雰囲気が滓のようにあります。
ですがだれにでも「死」は訪れるものです。


夫婦ふたりしかおらず、自分が助からず余命わずかとわかったら。
大好きな家族とパーティーを行って、その幸せ絶頂で亡くなりたい。
脳幹梗塞で22年間寝たきりになっている女性の苦しみとは。
自殺幇助、積極的安楽死をのぞみ行った人たちが語っていたのは
「自分らしく死にたい」
その言葉でした。


今のこの苦しみが軽減されることなく、むしろさらにひどくなってしまう。
認知症でこれ以上自分らしくいれないことに耐えられない。
どの方も「絶え間なく続く痛みから逃れたい」とも語っていました。
この苦しみから解放するのをお手伝いすること。
これは日本ではまだ「悪」になってしまいます。
宗教的にも、法的にも整備されていない、
そしてわたしたち国民もまだ心の準備が出来ていないのが現状です。

スペインで生まれつき難病であった12歳の少女の安楽死を母親が決めて決行しました。
また、友人の女性に自殺幇助を依頼し、患者の家族に伝えることなく決行した男性もいます。
アメリカでは脳腫瘍を患った女性がカルフォルニアから尊厳死法があるオレゴン州に移住、
そして安楽死を行い、その前にその気持ちをYouTubeに投稿しています。

問題なのは、残された家族と話し合うことをしていないこと。
自分の余命期間を自分らしく生きて、自分らしく死にたいということ。
積極的安楽死、自殺幇助が合法の諸外国でも
家族に伝えたら反対され、説得に時間がかかった、説得したけど失敗したけど決行など
ケースは様々なようです。
ですが残された人々に共通するのは
「愛する人が亡くなったくるしみ」です。
ですがその死の方法を受け入れた家族は、受け入れられず気づいたら決行されていた家族よりも
ある意味こころでは納得していたという事実です。

治ることのない病と苦しみだけでなく、自分の時間が限られていることがわかったら。
必ずしも安楽死は悪ではないと個人的には思います。
自分の気持ちを家族と医療機関に伝えたうえでなら。
それが可能になってもいいのではないか
そう思います。

安楽死を遂げるまで

著者:宮下洋一
出版社: 小学館
発売日:2017/12/13


【本日のサムネイル】
安楽死のイラスト
患者を苦痛から救うために、薬物を投与して安楽死(尊厳死)させた医師のイラストです。

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