12編からなる短編集です。
ほぼすべての話が独立していて、世界観はすべて異なっています。
話の舞台は現代ではありますが、SFのようなホラーのような、ジャンルを決めれない内容が多い印象です。
・生命式
本のタイトルにもなっているこの話は、
「人が亡くなったらその肉体を弔問客に食してもらい、その場で気に入った男女がカップルになった場合受精を行う」
命をたべて、受精をする。
生命式で出会っての受精は神聖なものなのでそこかしこで行われる。
そして産まれた子供はセンターに預ける。
生命式で授かった命は誰の子かわからないので、センターに預けて社会が育てる仕組みとなっている。
主人公は過去のことから「人肉は積極的には食べたくない」派で、男性同僚も同じ考えであったので仲良くしていたのだが、その彼が亡くなってしまう。
呆然としていた主人公だったが、彼の母親と妹と彼の肉を用い生命式の料理を作ることとなる。
その帰りで会ったゲイの男性に精子をもらい、性器にそれを入れるのだった。
タイトル作からして人肉食べます!!っていいんかこれ?ですが、この世界ではそれが当たり前。
自分の常識がずれている感覚を持ちながらそこに暮らすというのはどんな感覚なのだろうか?
主人公は彼がいなくなった世界でどう生きるのだろう
人肉を用いた料理がいろいろ出てきたけど、素人が作れるものなのかな…
・素敵な素材
人肉食べたと思ったら今度は、亡くなった人を素材として扱う世界です。
主人公は結婚を控えてる女性。
人毛を使ったセーターを着ており、女友達から羨望のまなざしを受けてる。
女子会が終わって帰宅すると婚約者の男性が先に帰宅しており喧嘩となる。
亡くなった人を用いたものを気持ち悪いという男性。
しかしこの世界では人を用いた素材は超高級品として扱われており、絨毯やテーブル、ランプなど
あらゆるものになっており、女性はそういったものを新生活に用意したいと思っている。
しかし彼のあまりの怒りにそれは叶わないと諦め、人毛セーターも捨ててしまう。
ある日彼の母親に呼ばれた二人が自宅に向かうと、亡くなった彼の父親を用いたベールが。
仲の悪かった父親だったが、彼の妻になる人が現れたらベールに使ってほしいと生前言っていたらしい。
それをみた彼は動揺し呆然とするのだった。
食べたと思ったら今度は素材になりました、人が。
結婚準備の家具とかオール人間素材当たり前でしょう!えー彼なんかおかしくなーい?
というノリで描かれていて、かといってこう想像しにくい描写でうーん???
庶民には高級ブランドの良さが伝わらないというやつでしょうか
・素晴らしい食卓
ある意味実際起きてもおかしくない話。
主人公夫婦は「次世代の食事」と言われてるキューブ状のフリーズドライ、冷凍食品を食べている。
海外セレブ御用達という言葉に弱い夫がホイホイされて購入し、妻はそれが面白く見ている。
その妻の妹が結婚することになった。
妹は重度の厨二病で中学時代からOLとして働いてる現在まで魔界都市で戦う超能力者という設定で生きている。
その彼女が婚約者の両親に手料理を振る舞うことになったのだが、それを手伝ってほしいという。
いろいろあって当日、主人公の自宅を会場に食事会は開催される。
妹が持参した食材は街路に生えていたどくだみやたんぽぽ。(魔界設定つき)
それらを使って作られた食べ物を前にした彼の両親が出したものは芋虫やイナゴなど。
彼の両親、妹それぞれ双方が遠慮する中で主人公は「次世代の食事」を提供するが
誰もカオスな食卓に手を伸ばさない。
これは彼が仕組んだもので偏食がひどいのを両親にわからせるための会だったのだ。
人は自分のすきなものを食べればいい。家族でも別のものをたべてもいいじゃないか!
それぞれが納得し、持参したものを食そうとしたところへ主人公の夫が帰宅。
「異文化交流はすばらしい!」と食卓に並んだカオスな食べ物をむさぼりだすのだった。
知り合いで家族の食卓にお父さん用、お母さん用、子供用とそれぞれの異なるおかずが並ぶ家庭があることを聞いたことがある。
嫌いなものは無理に食べなくていいという信条らしく、用意が大変だろうなと思った。
それの極端にしたのがこの話かな?と。
家族だから必ずしも同じものを食べなきゃいけないというのはいったいどこから発生したものなんだろうか?
・夏の夜の口付け/・二人家族
この二編だけは同じ人物二人が出てくるので一緒に。
夏の夜の口付けは、友人菊枝に夜中に呼び出され彼女の勤務のコンビニに行くと
わらびもちを薦められて一緒に食べながら菊枝の家に向かうというごく短い物語。
「このわらびもちが男の子の舌に似てるのよ。だから食べたくなるの」と高齢とおもわれる菊枝がいうのだからドキッとさせられる。
いっぽうの二人家族。
「30になっても結婚できなかったら一緒に暮らそうね」と学生時代のかわいらしい約束を実行した菊枝と芳子。
それぞれが精子バンクやらお付き合いしていた男性との間に子供を設け産まれた子供と五人で暮らし、その子供が独立して出て行って二人で暮らしていたら菊枝が倒れました。
母親が二人子供が三人で世間からいろいろ言われたけれど、結局ふたりになった。
それをさみしく思うも、後悔してなく「早く家に帰りたいわ」という菊枝であった。
こういうのも本当にありそうですが、実行したのは聞いたことがないですね。
芳子は精子バンクからの提供で子供は出産するも処女で、菊枝は男狂いという設定がまたすごい。
入院中の菊枝がノートにどうでもいいような詩を書いていたのがリアルでドキッとしました。
かわいらしい話である意味この短編集の箸休めのような位置だと思いました。
・大きな星の時間
眠らなくて大丈夫な身体になりながらも、昼間に家に引きこもるのがちょっと解せないなと。
この街に滞在するとみんなそのようになってしまう。
一種の吸血鬼のような状態なのでしょうか?
眠らないということは体力的回復はどのように行われるんだろう。
・ポチ
友達のユキに連れていかれた裏山の小屋にいたのはお父さんと同じくらいの歳のおじさんでした。
ユキはおじさんをポチと呼んで首輪をつけてあげてました。
「ニジマデニシアゲテクレ」
ポチは小さな声でそう鳴くのでした。
最高気持ち悪いけれど、子供だったらありなのか、いやないだろの葛藤でした。
「お父さんと同じくらいの歳のおじさん」と認識しているけれど、ユキがポチと呼ぶのでポチと認識していくのも恐怖だけれど
このポチの鳴き声が怖い。
かつてはそれを言った立場なのはわかるが廃人となってもこれを言い続ける悲しさがこわい。
・魔法のからだ
中学二年生の瑠璃と誌穂は仲が良い。
瑠璃は身長も高く大人っぽいが、誌穂はまだ小学生のような容姿だ。
誌穂は従弟とキスもセックスも済ませている。自分の考えでそう至ったと語る誌穂を瑠璃は大人のようだと思っている。
背伸びしたい思春期の子供の中にいる、自分を持っている女の子にあこがれる女の子の話。
下ネタで女子をからう男子や、それに過剰に反応して笑う女子はいつの年代もいるんだなという印象。
誌穂は自分の考えでそこに至ったと言っていたが実際はどうなんだろうな。
性は男性に消費されるのが当たり前の時代で、これくらい自分を持ったほうがいいのかもしれない。
・かぜのこいびと
風太と名付けられたカーテンはその部屋の主である奈緒子の生活をずっと見守ってきた。
初めてのボーイフレンドとの「ふれあい」をずっとみてきた。
そのボーイフレンドと別れた日、奈緒子は久しぶりに風太に抱きついて目を閉じていた。
カーテンに恋してる女の子という認識でいいのか、短い話なので何度か読み返してしまいました。
ボーイフレンドのユキオのどこに風太を感じたのか?
はっきり風太が好きとは書かれていないので、別れの原因であろう出来事が気に入らなかったのか
思春期特有の嫌悪感なのかは読み手に任せるということなのでしょうか。
・パズル
OLの早苗は会社では「怒らない」と認識されている。
早苗は「人間」を感じるのがすきだ。
自分自身に人間らしさは全く感じてないが、他人が怒り、食べ、生活し、働いてるのをみてうっとりしている。
怒るどころが鑑賞しているのである。
ある日後輩から元彼氏にストーカーされてることを相談される。
会社の人らが肉塊に見えだした彼女には後輩は胃袋にしかみえなかった。
後輩の家におしかけた元彼氏は心臓の姿だった。
正しい場所に収まれば、一体になればいい。こちらに来なさい。
そういって早苗は微笑むのだった。
要約しにくい…これは読んでもどう要約していいかわかりません。
他人が人間として生きてることに恍惚感を覚えていたのが、ビルをみて
翌日から人間に見えていた人たちが「肉」になっている。
たしかに一本のホースが刺さってる肉と表現していた作家もいるが、内臓に例えるのも珍しいなと思いました。
・街を食べる
私は野菜が食べれない。
幼少期に遊びに行っていた祖母の住んでいた田舎では取れたての野菜はおいしく食べられたのだが、レストランの添えられた野菜、ハンバーガーのレタスなどほぼ食べられないのだ。
幼少期のようにもぎたてのものだったら食べられるかもしれない。
公園のたんぽぽなど摘んで帰ってみたものの、そのぐったりした状態に食べる気は起きなかった。
風邪をひき丸二日寝込み起きた早朝、アパートとフェンスの隙間に生えていたたんぽぽが急においしそうに見えた。
それを引きちぎって部屋で茹でて食べる。素朴な野菜の味に感動する。
それ以降野生の野菜?を食べるようになっていく。街の隙間からもぎ取ってたべることを私は街を食べている、自分の身体が内から変わっていくことに喜びを感じている。
街路に生えてる植物を食べていくうちに自分が変わっていく感覚になるのは何となく理解できるのだが、それに狂気が伴っていくのが行程的にどこでそうなった?と疑問でした。
自分も幼少期野生のカエルやハチの子、スズメを「滋養がある」と無理やり食べさせられたのだが
どうも彼女の気持ちが理解できませんでした。
・孵化
ハルカは自分がない。性格がないのだ。
その時々の仲間が求めてる性格やファッションに身を包むのがいいと思っている。
中学では「委員長」
高校は「天然でちょっとばかな、アホカ」
大学のサークルでは「姫」となって、ワンピースなどかわいらしい服を着た。
アルバイト先では「男の子っぽいハルオ」
社会人になったら「クールな一匹狼のミステリアスタカハシ」
そのコミュニティで好かれるためだけにキャラクターを作り、言葉を行動を変えていく。
コミュニティの中で好かれて溶け込むと都合がいい合理的と思っていた。
恋人と結婚することになり、披露宴には中学時代から会社の同僚まで招待することになってしまう。
ほとんどの人が彼女がキャラを変えていることを知らない。
それを危惧した事情を知っていた友人は彼女にあるプレゼントをする。
恋人にいままでのキャラの話を告白し、新しいプレゼントされたキャラ設定で暮らすことにしたのだ。
ネットで知り合った人と実際あったら、ネットでの性格と全く異なっていたとはよく聞く話ですが
ここまでキャラを使い分けてるのはすごいの一言。
よく恋人にばれなかったな…。
うっかり知ってしまった友人も見捨てずに友達続けて親身になってるあたりいいひとすぎる。
披露宴ではあまり新郎新婦と話せないことも多いので新しいキャラになる必要はない気もしたけれど
恋人に打ち明けてそれを受けいれたのも、いい人すぎるなあと。
今後子供が産まれてママ友たちにはどんなキャラでせっするのだろう。
・まとめ
タイトル作である「生命式」、その次の話「素敵な素材」でこの世界観を受け入れて読み続けると
サクサク読むことができたのだが、後半にいくにしたがってパワー不足に感じてしまいました。
素に戻ってしまうというか「いや、それおかしいから」とツッコミいれてしまってました。
どの話も短いページで書かれているのがすごいのですが、その短さゆえに「もっと掘り下げてくれないと納得いかないんだよなあ」と思う作品もありました。
どの作品も主人公の女性はやさしくて傷つきやすいのかもしれなく、それが過剰になっての作品なのかもしれないと思いました。
タイトル:生命式
著者:村田紗耶香
出版社:河出書房新社
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