「ぼぎわんが、来る」の比嘉姉妹シリーズの著者の本格ミステリーです。
(今回はネタバレがありますのでご注意ください)
大丈夫です。
絶叫しません。
読んでいくうちに途中数カ所「ん?」と違和感があることがありました。
ほんとうに些細なことだったりなので
その時は(こういうもんなんだろうな)と
読み進めていたら最後に明らかになりました。
あらすじにある「 ヒキタの怨霊が下りてくる」 というのは
島の裏側にある産廃のせいで硫化水素が発生することを指していました。
違法産廃による硫化水素の発生をひた隠しにしたく、
主人公である淳らを島の人たちは邪険にしていたのですが
移住のために引っ越してきた麻生がそれに一切気づかずに民宿を経営してるのが
なんだか違和感があります。
そんなに広い島ではなさそうなのに、産廃の存在知らないものなのでしょうか?
友人と三人で旅行に行く(30超えの息子)
それに母親が同行というのは
晶子、伸太郎親子でカムフラージュされているので一見わかりにくいです。
淳の母親の存在が明るみになってから再読すると、その異質さがすごいです。
「平日午後九時。一連のいきさつを聞いた天宮淳は、ため息交じりに言った」
(第一章17ページより
平日の午後九時に、友人の自殺未遂について母親から聞くでしょうか?
物語の冒頭部分のシーンなので
「家庭固定電話なのだな」
と思ったのですが、読んでもなんだかおかしい。
そう、これは母親が淳の携帯電話を管理していて
友人が電話をしたらその電話に母親が出たので仕方なく母親に言伝
それを淳が母親から聞かされたシーンだったのです。
主人公である淳は登場人物の中でも特にアクティブに動いているのですが
「母親がそれにずっと同行している」という年齢的無理感が…
(本文では淳が母親に気遣っていたらしきシーンもありましたが)
また友人同士の会話でも、淳にきさくに話しかけていた友人が
急に敬語になったり…
船の中で三人掛けの椅子に、友人らは前の椅子に座っており
淳は後ろの席から会話に加わっている。
「旅行だから荷物が多くて2、1とばらけたのだろうな」
日常でありそうな些細な事の思い込みが作者の手ですべて使われています。
思い込みこわい…
今思うと決定的な出来事は
「島に上陸した時、20年前とおなじように霊能者のテレビ撮影クルーが来た、とまちがわれた」
20年前、その霊能者は中年…初老の女性でした。
息子に同行してきた母親は60代。
息子と友人らはバックパックなどに着替えなど詰め込んできたのでしょうから
島の人には同じにみえたのでしょう。
あらかじめ予言されていた殺される人は六人。
その最後の一人となってしまった紗千花は、予言がはずれるのを見届けに来た霊能者の孫。
その彼女を
「息子が殺されたら困るでしょう」
という理由だけで殺害してしまう母親と
最後に息子を罵る母親。
結局母親にとっても息子にとってもお互いが呪いのような関係だったのかなと。
亡くなった5人は一部自業自得のような部分があるケースもあるので
なんともいえませんが、彼女だけは全く救われなかったなと感じました。
話の流れ的に、読み手が彼女に好意を持った最高値を狙って
亡くなっているので、非常にびっくり&がっかりしました。
島の住民が「黙っていればいい」「ばれたら面倒」と産廃を放っておいたこと、
淳が母親になにもかも管理されていることを思考停止で逃げていたこと、
このふたつが重なっていなければ
予言はあたることはなかったと思うと非常にもんやりです…。
個人的には最後のオチ(母親)がなければ花丸百点でした。
その存在を直接文字にせず、でも確かに存在してるように書くというテクニックはすごい!
見事に騙されたわけで、それが見破られなかった自分も悪いんですが、
久しぶりに個人的に後味わるい終わりでした…
(評価がめちゃめちゃいいのも納得したうえで書いてます。やられたなあ)
著者:澤村 伊智
翻訳:
出版社:KADOKAWA
発売日:2021/6/15
【本日のサムネイル】
予言の書のイラスト
「予言」と「PROPHECIES」と書かれたボロボロの古い本のイラストです。
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