- 今回紹介するのは、明治、大正の文豪のスキャンダル本です。
- 炎上案件1 太宰治と「憤怒」/見苦しいほどの功名心と金欠
- 炎上案件2 島村抱月と松井須磨子の「逢う」/劇作家との愛を演じ切った女優の縊死
- 炎上案件3 国木田独歩の「恋」/真面目で一途な独歩が二度の結婚で知ったこと
- 炎上案件4 田山花袋と永代美知代「噂」/『布団』で人生が狂ったヒロインのモデル
- 炎上案件5 与謝野晶子の「晦渋(かいじゅう)」/師への激しい恋心を読んだ女性たち
- 炎上案件6 有島武郎の「希う」/『惜しみなく愛は奪ふ』波多野秋子との無理心中
- 炎上案件7 鈴木三重吉の「腐れ縁」/飲めば暴れる三重吉と二番目の妻・らく子
- 炎上案件8 らいてうへの紅吉の「赦(ゆる)し」/カミングアウトした同性愛
- 炎上案件9 漱石の長女と久米正雄の「機」/筆子をめぐる久米正雄と松岡譲の恋愛事件
- 炎上案件10 北原白秋の「謬(あやま)る」/隣家の人妻との道ならぬ関係
- 炎上案件11 石川啄木の「成心」/借金王啄木が求めたもの
- 炎上案件12 川端康成の「眠り」/川端の死は自殺だったのか事故だったのか
- 炎上案件13 森鴎外の「瑕瑾(かきん)」/「舞姫」の小さなキズとは何か
- 炎上案件14 夏目家の「贅沢」/漱石の生前没後の経済
- 炎上案件15 三島由紀夫の「誇示」/ひた隠しにした出自のコンプレックス
- 炎上案件16 伊藤整の「猥褻」/『チャタレイ夫人の恋人』はエロ本か文学作品か
- 炎上案件17 永井荷風の「累」/父親への嫌悪から選んだ生き方
- 炎上案件18 徳富蘆花の「絶交」/偉大な兄・蘇峰との確執
- 炎上案件19 山田美妙の「窃(ひそ)かに」/文壇をリードした美妙の惨めな最期
- 炎上案件20 島崎藤村の「別離」/教え子との実らなかった恋
- 読んでみて
今回紹介するのは、明治、大正の文豪のスキャンダル本です。
20人もの当時の文豪のあれこれが書かれたものです。
現在同じことがおきたら炎上モノででしょう事柄から
今だったらそんなに叩かれなかったかもねまでさまざまです。
タイトルに明治、大正とありますが
昭和の文豪も取り上げられています。
目次をみただけで「どういうことなの?」と思うスキャンダラス!
この当時の文豪は小説や俳句、短歌など
文化的な活動はしているものの
生活能力がない自由人だったりアウトローだったようです。
炎上案件1 太宰治と「憤怒」/見苦しいほどの功名心と金欠
昭和10年に設立された芥川賞。
これが欲しくてほしくてたまらなかったことで有名な太宰治。
腹膜炎の手術時に鎮痛剤パビナールの注射をされたことで依存症になり
この芥川賞の賞金が欲しかったとのこと。
何度も「私に与えてください」との手紙を
審査員だった川端康成に送るも最後まで受賞ならず…
最終的に女性と入水自殺をするのですが、
この女性が貯めていたお金も使い果たしてから、というのも
徹底してるというか、いやはや。
タイトルに「明治大正」とあって最初から昭和というのもすごいです。
炎上案件2 島村抱月と松井須磨子の「逢う」/劇作家との愛を演じ切った女優の縊死
スペイン風邪で急死した島村抱月の恋人である松井須磨子が後追い自殺というものです。
それだけみると昔ならありがち、と思うのですが
この松井須磨子がすごい。
田舎から東京に嫁いだ姉を頼りに上京。
その後薦められて結婚するも、姑に疎まれ離婚。
なぜか女優になる!と俳優養成所にいき「鼻がひくい」という理由で入学拒否。
ならばと蝋を鼻筋にいれて再受験。見事?合格。
学校の日本史の教師と再婚し舞台にのめりこみすぎて破局。
舞台に立ち、劇作家だった島村とねんごろに。
島村に妻子があり「姦通罪」となって舞台に立てなくなった彼女のために
島村は劇団をたちあげます。
その舞台が成功し、スペイン風邪で島村が亡くなります。
その二ヶ月後に須磨子は自殺。
結婚して姑に追い出されてから、自分の情熱のまま生きたという姿。
現代でもそういないのではないでしょうか。
炎上案件3 国木田独歩の「恋」/真面目で一途な独歩が二度の結婚で知ったこと
日清戦争時に新聞社で戦争のルポタージュを連載してきた国木田独歩。
従軍記者が招待された晩餐会にて令嬢の信子と知り合います。
交際だけではなく北海道に移住を持ち掛け、二人は逢瀬を繰り返す。
それに気づいた信子の父は激怒するも娘の情熱にしぶしぶ認めます。
北海道移住は頓挫し、半ば駆け落ちのような形で結婚する二人。
だが新居の伊豆に独歩の家族が当たり前のように居座り
また彼自身も無職でありました。
令嬢だった信子は結局家出のようなかたちで実家に戻り離婚となる。
その後再婚した女性、治は献身的に尽くした。
そうです、お金がないとくらしていけないのです…
愛で腹は膨れぬのです…世知辛いけど
炎上案件4 田山花袋と永代美知代「噂」/『布団』で人生が狂ったヒロインのモデル
中年の作家のところに若い女性が弟子にとやってくる。
作家と女性は仲良く同じ屋根の下で師弟関係を続けていたが師は弟子を性的にみていた。
ところが弟子には恋人がおり、それを知った師は彼女を実家に帰らせ恋人と会えなくする。
自分自身も弟子と会えなくなった師は彼女が使っていた布団を押し入れから出し
その残り香をかいで、泣いた。
これが田山花袋の「布団」あらすじですが、実話だったということです。
女性も、その恋人もモデルがおり、「縁」という小説のモデルにもなっています。
この二つの作品を発表されたことで二人の人生がめちゃくちゃに…
というかこわいです。ほんとやめてほしい…
炎上案件5 与謝野晶子の「晦渋(かいじゅう)」/師への激しい恋心を読んだ女性たち
与謝野鉄幹に対して恋慕を抱いていた与謝野晶子
彼女が鉄幹への思いを歌に詠み、雑誌に掲載されていたことが
当時としてはセンセーショナルだったようです。
この鉄幹は田舎で教師をやっていたものの女生徒とねんごろになって
駆け落ちのように大阪にやってくるという破天荒さ。
また鉄幹に恋慕する山川登美子と与謝野晶子は親しくなる。
紆余曲折があり鉄幹と晶子は不倫から結婚したのですが
ずっと思いを雑誌を介して読んでいた奥様がしんどいです。
炎上案件6 有島武郎の「希う」/『惜しみなく愛は奪ふ』波多野秋子との無理心中
有島武郎の妻が亡くなったのちに方々から再婚相手がやってきたが
どれも遊びにし、
後に出会った女性波多野秋子と心中をした。
心中の理由はいろいろあるけど作品がかけなくなっていたので
たぶんスランプだったのかも、
という身もふたもない…。
再婚相手と遊んでいた時期に与謝野晶子とも関係があったのではないかという
噂も残っており、すごいなあと。
ただ心中はよくない…子どもが三人いたそうです…
炎上案件7 鈴木三重吉の「腐れ縁」/飲めば暴れる三重吉と二番目の妻・らく子
学生時代から酒におぼれ、飲むと暴れることをくりかえしていた鈴木三重吉。
初婚の妻には暴力が原因で離婚され、再婚した女性らく子との間に子どもができます。
児童文学をかきはじめ、雑誌を創刊。
様々な名作が世にはばたく機会となったが、飲むと暴れるのはかわらず。
暴れるだけでなく妻に暴力をふるうことが常だったそうです。
結局離婚となったのだが、弁の立つ鈴木は慰謝料をけちり
子どもは養子と鈴木家に引き取られてしまいました。
再婚相手にも暴力をふるい、文壇仲間の記録にも残っています。
酒に呑まれるのは勝手だけど暴れる暴力をふるうのはちょっと…
炎上案件8 らいてうへの紅吉の「赦(ゆる)し」/カミングアウトした同性愛
平塚らいてうと尾竹紅吉がお互い同性であったが惹かれあっていました。
尾竹が結核になって入院した時は見舞うために近所に家を借りました。
この時期にとある若い男と知り合い一線を越えてしまったらいてう。
勘のいい尾竹はそれに気づいてしまいます。
お互いがお互いへ向けた気持ちを綴った文も多いですが
らいてうは後日自伝にて尾竹への気持ちを綴っています。
後日自伝に書いちゃうんか!!やめてあげてほしい…
炎上案件9 漱石の長女と久米正雄の「機」/筆子をめぐる久米正雄と松岡譲の恋愛事件
夏目漱石が亡くなったのちに久米正雄は夏目夫人に長女との結婚を申し込みます。
返事がはっきりなされていない状況で
久米は門下生に「長女と結婚が決まった」と公表します。
この頃夏目家の息子の家庭教師をしはじめた松岡譲に長女は親しみ以上を感じ、
なんと二人は結婚してしまいます。
激昂した久米は夏目夫人、長女、松岡そして自分についていくつもの小説に書き出版。
松岡も負けじと小説を発表し、自分の正当性を示しますが
世間は松岡が長女を奪ったと認識するのでした。
小説家なんでも赤裸々に書きすぎ問題…ちゃんと話は聞いて動こうと思いました。
炎上案件10 北原白秋の「謬(あやま)る」/隣家の人妻との道ならぬ関係
引っ越し魔だった北原白秋が千駄ヶ谷に移った時、隣人の夫人とねんごろになります。
転々と引っ越しを続ける先に夫人はやってきます。
ある時その夫から姦通罪と訴えられ二人は収監されてしまいます。
出獄して示談金を払っても夫は離婚しない。
やっと離婚した時夫人は肺結核となっていました。
三島に引っ越した二人の元に北原の家族が騙されて無一文になって同居するのですが
夫人が生活に耐えきれず北原が信用していない男から借金したことで
二人は離婚します。
その時代なのでしょうが、身内が転がり込んでくると生活破綻してしまうケースが多いですね。
炎上案件11 石川啄木の「成心」/借金王啄木が求めたもの
父親が住職をしていたので、お布施として
他人から金品をもらうことが当たり前と思っていたところがあった石川啄木。
人が自分に供することを当たり前とおもっていた節がありました。
上京してきてからも家賃も払ったことがない。
メモとして借金したお金や購入したものが羅列されていたものがあったそうだが
ただのメモなのです。
世の中の理不尽さや不安をねじ伏せるために贅沢が必要だったとありますが
田舎の甘やかされた長男独特の思考だと感じました。
炎上案件12 川端康成の「眠り」/川端の死は自殺だったのか事故だったのか
構成を一切考えず、書きたいところから書く。
「これから始まるところでおわっている小説」と自作を言っていた川端康成。
死のあこがれ、のようなものが行間にあったのではないかと
作中にはあり、また「私の生活」にある十の希望が書かれています。
自殺をしたのが72という年齢だったので健康問題が大きかったのではないでしょうか
(ここの項目のみ作者も切り口がはっきりしていません)
炎上案件13 森鴎外の「瑕瑾(かきん)」/「舞姫」の小さなキズとは何か
森鴎外の代表作である「舞姫」
これが発表されて後に石橋忍月が批評を雑誌に掲載しました。
それに対して森も反撃を。
石橋はすぐに反論を辞めたが、森は続け石橋だけでなく他の作家らにも
次々と論争をしかけつづけました。
いずれにせよ引き際を見誤るとは信用も無くすものです。
炎上案件14 夏目家の「贅沢」/漱石の生前没後の経済
イギリス留学するもお金がなくて果ては精神を病んで帰国した夏目漱石。
「吾輩は猫である」がヒットし、お金の苦労から抜け出したと
本人は思っていたが、実際は原稿料を元手に夫人が株を購入、儲けていたのです。
漱石亡き後の世界恐慌で経済危機が夏目家にも起き、
結果漱石の家は売却されることになってしまいました。
漱石は夫人が株をやっていたのを知らないまま亡くなったらしいので
これを知っていたらまた胃が痛くなったのではないでしょうか。
炎上案件15 三島由紀夫の「誇示」/ひた隠しにした出自のコンプレックス
大蔵省の官僚から作家となった三島由紀夫は父方の祖父について一切書くことはありませんでした。
それはその祖父が貧農から成りあがったから、という噂をまとめたもの。
祖父よりも徴兵制検査の肉体コンプレックスにはものすごく納得がいきました。
炎上案件というよりも雑誌のスクープになりそうですよね。
炎上案件16 伊藤整の「猥褻」/『チャタレイ夫人の恋人』はエロ本か文学作品か
伊藤整の名翻訳「チャタレイ夫人の恋人」が発禁処分になりました。
それから七年の間、議論の果てに
最高裁判所判決にて有罪となってしまいます。
世界の猥褻といわれた各書はどのような扱いをうけたのかも記載されています。
裁判から46年後、完全版としてふたたび「チャタレイ夫人の恋人」は出版されました。
炎上案件17 永井荷風の「累」/父親への嫌悪から選んだ生き方
父親が嫌いなのに、父親のコネ総動員で銀行に勤めたり
その後外国に転勤して遊んだりやりたい放題だった永井荷風。
帰国後その外国生活を綴ったものがヒットし、各文豪から認められました。
その後見合い結婚をするも芸奴と密会続けたり、
結婚後父親がすぐに亡くなると即離婚。
とにかく父親が嫌いすぎてやりたい放題という人生…
反骨精神で作品を書き上げていたとありましたが、周囲は大変だったでしょうね
炎上案件18 徳富蘆花の「絶交」/偉大な兄・蘇峰との確執
永井荷風が父との確執なら、こちらは兄との確執。
徳富蘇峰(とくとみそおう)という言論界の巨人の弟、徳富蘆花(とくとみろか)。
五つ下の弟は子どもの時から自分が認められないと癇癪を起こすという性格。
母は兄を溺愛信頼し、弟をのろまと公言していました。
このことで弟は兄に絶交書をおくってしまいます。
兄と絶交して後弟は作家として邁進するも心臓発作で倒れ亡くなりました。
兄は弟の死後、彼の思い出を各人につたえていたそうです。
この兄も弟も自伝や日記を出版しているのですが、
兄弟のことや、夫婦間の褥の問題まで書いているようで
本当に周囲は大変だったことと思います。
炎上案件19 山田美妙の「窃(ひそ)かに」/文壇をリードした美妙の惨めな最期
尾崎紅葉と幼馴染だった山田美妙は当時文壇をリードする作家。
作品の挿絵に裸体画を使用したのも彼が日本人初でした。
そのことが原因で友人である尾崎と絶交となってしまいました。
その本に大きな衝撃を受けた田沢稲舟と数年後結婚するも
お金がなく家事をしたことがない彼女は実家に逃げ帰ってしまいます。
女性と派手に豪遊して友人を蔑ろにし続けた結果、だれも相手にしなくなったという。
炎上案件20 島崎藤村の「別離」/教え子との実らなかった恋
勤務していた女子生徒に恋心を抱くも
本人含む周囲の生徒にまでバレバレになり
いずらくなったので放浪の旅に出かける島崎藤村。
女生徒は実は藤村を快く思ってはいたが許嫁がいたのです。
それを知った島崎は再び放浪の旅へ出てしまいます。
その間彼女は結婚するが、三か月後病で亡くなってしまったのです。
彼女が生前書いていた日記には島崎への思いが綴られていた。
告白したらワンチャンあったのでは…
放浪なんかしなければよかったのに
読んでみて
タイトルといい表紙といい
最近の流行りっぽく煽っておくか感が否めませんが
当時作家という職業がどのようなものであったのかがわかる内容でした。
その時代では当たり前だったのかもしれませんが
アウトローな作家という職業は女性からみたら俳優やスターのようなものだったのでしょう。
また田舎のいいとこの長男が都会に出てきて作家になる。
女遊びや贅沢をするも、結婚と同時に没落。
田舎にて新生活するも妻はいいところのお嬢様だったので
家事全般やったことがない。
そこに作家の身内が同居をはじめ、耐えきれずに離婚
というテンプレートができてしまっていたのが興味深いです。
あとやたら日記や作品に生活まるっと書くのは
作家だから書かずにはいられなかったのでしょうねえ。
よくある「天井裏から文豪の日記が出てきました」ニュースがありますが
とても納得しました。
その時本人たちは真剣に生きてきたのでしょうが
いま読むと苦笑してしまうのは少し悲しくもあります。
【あらすじ】
名作の陰に炎上あり!
不倫、DV、薬物、同性愛、毒親、なんでもあり、炎上文豪オールスター大集結!
文豪たちは苦しみ、悶え、それらを作品として昇華させた。
文豪たちのあの作品はこうして生まれたのだ!
ドロドロの中でこそ文学はきらめく。彼らの「炎上キーワード」をひもとき、その言葉を使わざるを得なかった彼らの人生の一時期を紹介。
彼らの知られざる一面に触れる時、文学の面白さは格段にアップする。
著者:山口謠司
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2021/1/26
【本日のサムネイル】
太宰治の似顔絵イラスト
「走れメロス」や「人間失格」などを書いた日本の作家、太宰治の似顔絵イラストです。
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