幻は、幻が消えたときに、幻とわかる。
――脳の中からの鮮やかな現場報告!「時間という一本のロープにたくさんの写真がぶら下がっている。それをたぐり寄せて思い出をつかもうとしても、私にはそのロープがない」
ケアの拠り所となるのは、体験した世界を正確に表現したこうした言葉ではないでしょうか。
本書は、「レビー小体型認知症」と診断された女性が、
幻視、幻臭、幻聴など五感の変調を抱えながら達成した圧倒的な当事者研究です。
「レビー小体型認知症」と診断された著者が書いた闘病記です。
看護、介護勤務者や経験者ならおなじみの病気ですが
介護テキストですとそんなに詳しく載ってないイメージです。
どのような病気なのでしょうか。
「レビー小体型認知症」とは
脳の神経細胞の中に「レビー小体」と呼ばれる異常なたんぱく質の塊がみられます。
このレビー小体が大脳に広くに現れると、その結果、認知症になります。
実際にはいない人が見える「幻視」、
眠っている間に怒鳴ったり、奇声をあげたりする異常言動などの症状が目立ちます。
また、手足が震える、小刻みに歩くなどパーキンソン症状がみられることもあります。
頭がはっきりしたり、ボーッとしたり、日によって変動することも特徴的です。
著者は41歳に誤ってうつ病と診断され治療で悪化、
50歳でこのレビー小体型認知症と診断されました。
最初は内にこもっていましたが、実名で病気を公表し、治験に参加したり
闘病について講演会を行っています。
介護のテキストなどではほぼ書かれていない病気だったので
興味本位で読んでみましたが
こんなにはっきりと自分の気持ちを書かれている認知症の本は珍しいと思いました。
この本でうつ病の闘病について初めて書かれたとありましたが
ある意味この6年があったからこそ、
この病気を受け入れて公表する勇気が生じたのではと思いました。
興味深い「VR認知症」プロジェクト
一番興味深い章は「VR認知症」についてです。
株式会社シルバーウッドさんのプロジェクト「VR認知症」の「レビー小体型幻視編」の
シナリオ、演出アドバイスなどを行っています。
「認知症」というくくりでのVRは聞いたことはありますが、
病気によって、また個々によって症状はことなりますので
「アルツハイマー型認知症編」「レビー小体型幻視編」と作ってるのは素晴らしいと思います。
読んでみて
50代で認知症というのは、ご本人もご家族もショックだったと思います。
著書内でもお子さんにだけは知られたくなかったというエピソードがありました。
ですがそれを受け入れて、実名を公表し
「自分が自分らしく生きるにはどうしたらいいか」を考えての日々の生活の工夫、
今までの著作を書いた時になかった症例がでてきたことや
講演会にて傾聴者に「もう元気なんですね」と誤解されている苦しみまでも
赤裸々に書かれているのはとても貴重だと思います。
同じ病名でも私はこういう症例が出てます。
でも最近このような症例も出始めました。
これは認知症だけでなく、どの病気でも言えることだと思います。
本を読んで鵜呑みにするのではなく、
「こういう症例もあるのか」という気持ちで読むべきなのだと痛感しました。
タイトル:誤作動する脳
著者:樋口直美
出版社: 医学書院
発売日:2020/3/2
【本日のサムネイル】
認知症の脳のイラスト(レビー小体型)
レビー小体と呼ばれる異常なタンパク質が脳内の神経細胞にたまっている、
レビー小体型認知症の脳を描いたイラストです。
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