【それは正しいことなのか?】闇に魅入られた科学者たち―人体実験は何を生んだのか

ノンフィクション

科学者の好奇心は、善か、悪か

NHKの番組に「フランケンシュタインの誘惑」という番組があります。

科学は、人間に夢を見せる一方で、
ときに残酷な結果をつきつける。
理想の人間を作ろうとした青年フランケンシュタインが、
怪物を生み出してしまったように―
輝かしい科学の歴史の陰には、
残酷な実験や非人道的な研究、不正が数多くあった。
そんな闇に埋もれた事件に光を当て、
「科学」「歴史」「倫理」に迫るシリーズ。

その番組でとりあげた5人の科学者について掘り下げたのが本書です。

第一章 切り裂きハンター 死のコレクション

ジョン・ハンター (外科医・解剖学者)
1728年2月13日 – 1793年10月16日 イギリス人

「実験医学の父」「近代外科学の開祖」と呼ばれ、
近代医学の発展に貢献したが、
解剖教室のための死体調達という裏の顔を持ち、
レスター・スクウェアの家は
『ジキル博士とハイド氏』の邸宅のモデルになった。

医師であった兄の助手として始めた解剖が、まさかの天職で
並々ならぬセンスと技量を発揮したジョン・ハンター。
ですが当時は解剖は殺人罪などの罪人が刑罰や見世物としてされていたので
献体が全く集まりませんでした。
なので彼は夜に墓を暴いて死体を集め、昼にそれを解剖するということを行っていた。

第二章 「いのち」の優劣 ナチス 知られざる科学者

オトマール・フォン・フェアシュアー (人類遺伝学者)
1896年7月16日 – 1969年8月8日 ドイツ人

遺伝学研究や遺伝疾患と遺伝異常についての研究における双生児研究の先駆者であり、
人種衛生学に関心を持つ卓越した優生学者で、
20世紀前半の断種計画の主唱者であった

双子の観点から結核を調べていたが、
「結核から民族を救うために優生学を取り入れ、患者に対して不妊手術を行うべきだ」と警鐘
それがエスカレートし、障がい者の不妊手術、つまり断種を行うべきだと主張。
一時は州、国に受け入れられなかったがナチスが政権となると
断種法は「本人の同意なしでも可能」と成立となる。
ナチスに関わった研究者は戦後に戦犯として処刑されたりしたが、
彼は罰せられることなく、死ぬまでドイツ医学界のトップと君臨し続けた。

第三章 脳を切る 悪魔の手術 ロボトミー

ウォルター・フリーマン (精神科医)
1895年11月14日 – 1972年5月31日 アメリカ人

ロボトミー手術の術式を発展させたことで有名。
アメリカ精神医学会のメンバーであった。

頭蓋骨の側頭部にドリルで穴をあけ
長いメスを差し込み、脳の前頭葉と呼ばれる部位に繋がる神経の一部を切った。
これにより重篤な精神病患者が元気になった。
ロボトミーとよばれた手術を行ったのがフリーマンである。
この手術は思いの外受け入れられ、
簡略化のため電気ショックとアイスピックを差し込むということまで実用化された。
万能と思われたロボトミーだったが、手術による重篤な副作用が明らかになる。
ジョン・F・ケネディの妹ローズマリー・ケネディもこのロボトミー手術の副作用で
亡くなるまでの60年を施設で暮らすこととなった。

第四章 汚れた金メダル 国家ドーピング計画

マンフレッド・ヒョップナー (医師)
1934年 –  ドイツ人

「国家計画14・25」
東ドイツ政府が極秘に進めた、禁止薬物による競技エリート育成の国家政策。
3000人もの科学者やトレーナーが関わり、
推定1万5000人の選手に薬物を投与していたのである。
この首謀者の一人で
計画遂行の全権を任されたのが医師のヒョップナーである。

敗戦国で、かつ西ドイツに人々が逃亡していた東ドイツが
自国をアピールする舞台とえらんだのがオリンピック。
ドーピング自体はローマ時代から存在しており
1950年代に筋肉増強剤が登場
彼は研究や人体実験によって、うまく機能する投薬を開発し
どんな種目でも使えるように調整を行った。
またこのドーピングは選手には知らされておらず
重篤な副作用が出て、現在も苦しんでいる元選手も多い。

※ドイツのドーピング問題についてはこちら→「ドイツ民主共和国のスポーツ」
Wikipediaにも掲載されています。

第五章 人が悪魔に変わる時 史上最悪の心理学実験

フィリップ・ジンバルドー (社会心理学者)
1933年3月23日-  アメリカ人

スタンフォード監獄実験とは、アメリカ合衆国のスタンフォード大学で行われた、
心理学の実験である。
心理学研究史の観点からは、
ミルグラム実験(アイヒマン実験)のバリエーションとも考えられている。

「スタンフォード監獄実験」として有名な人体実験
看守、囚人としてランダムに配置されたアルバイトの大学生たちを「模擬監獄」に入れた場合
どのように人はうごくのか
「状況」の力がその人の人格にどのような影響を及ぼすのかを経過観察する予定で行われた。
ところが徐々に囚人に嫌がらせや精神的暴力をエスカレートさせていく看守と
精神的に追い込まれていく囚人の様子から二週間予定されていたが
6日で打ち切られた。

※ジンバルドーのTEDトーク
「普通の人がどうやって怪物や英雄に変容するか」
(日本語字幕あり)

読んでみて。

5人の科学者が行ったことは、いずれも許されることではありません。
どのケースも被験者に対してその実験の目的が知らされることなく行われています。
もっとも
理由をいえば実験してもNGのものばかりです。
その時の科学者は
「自分が考えてたコレは正しい!」
「だからやりたい」
「やってもいい」
という思考に乗っ取られたかのようにふるまっています。
それは成功だったり立場だったり
それらのためにどんどんエスカレートしていきます。
番組内や本作の中でもそれらに詳しい学者らが
「現在だったら絶対ゆるされない」
「それはなぜか」
「でも科学者だったらやってみたい気持ちはわかる…」
と学者ならではの思考や現状を教えてくれています。
現在私たちが安心して医師に体をゆだねたり
薬をのんだりできるのは
それらの安心を証明した先駆者がいたからです。
でもその彼らの活動のもう一つの顔が、正しくなかったら…
そういうケースも実際にあるのです。
科学者だからこその誘惑に勝てなかった、そんなケースは
私たちが知らないだけで現在もあるのかもしれません。

フェアシュアー、ヒョップナーについてWikipediaがなかったり
その事柄が記載されていないのは
政治的なこともあるのかなと邪推してしまいました。
そういう意味ではこういった番組や本を出版することは
大切なことだと思います。
どさくさに紛れてなかったことにするのは
第二、第三の彼らが出現するようでとても怖いことだと思います。

闇に魅入られた科学者たち―人体実験は何を生んだのか

著者:NHK「フランケンシュタインの誘惑」制作班
出版社:NHK出版
発売日:2018/3/8

【本日のサムネイル】
脳の研究をしている科学者のイラスト
脳の働きを研究している脳科学者のイラストです

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