冒頭部分での外国人がもつ東北のイメージの禍々しいイメージ、見え方に愕然としました。
そんなにも東北は薄暗く曇天の、ただ我慢と忍耐の地のようにみえるのか。
著者は「ザ・タイムズ」紙アジア編集長、東京支局長。
震災当時、日本に住み始めて16年。
ジャーナリストの著者からみても東北は異質にうつっていた。
そんな東北に震災後、実に様々な場所を取材を行い
特に取材を継続し続けた、宮城県の海岸の町のことをまとめたのが本書です。
もともとこの本は心霊に関することが宣伝に書かれていました。
被災地で相次ぐ「幽霊」の目撃談に興味を持った著者は
被災者のカウンセリングを続ける仏教僧に巡り合う。
僧侶は津波の死者に憑かれた人々の除霊を行っていた。
「そうか、震災以降の幽霊や怪談に関する本なのか」
そう思ってました。
この本は津波で子どもが犠牲になってしまった大川小学校にまつわる話に
上記の僧侶の話がプラスされたものです。
8:2の割合、大川小学校の話がほとんどです。
大川小学校
複数の女性が中心に取材されています。
どの方のケースも大川小学校に子どもが通っていて、被害にあってしまいました。
震災当日の朝、地震、その後…と
入れ替わりながら書かれています。
個人的に思うところがあり、震災10年経過するまでは
震災系の話は読まないようにしていました。
放射線についての本は読んでいましたが、地震、津波、原発事故にまつわるものは
とにかく避けていたので、
津波についてここまでリアルに記載されてることにただただ驚愕でした。
津波にのまれてなお助かった役場の方の話がすごかった。
自分の想像以上のものを読むと、ただただ文字を追うに必死で
「彼と隣にいた人の生死をわけたものは…」と
ありきたりのことしかでてきませんでした。
翌日になっても、その次の日になっても戻らないわが子
ぼろぼろになった学校自体は津波に持っていかれなかったものの
飲み込まれたのは確かで
一面の泥と瓦礫のなかから発見されたわが子を泣きながら引き取る親
沢山の亡骸が見つかり、親元に戻って…
時間の経過とともに見つかる数がへり…
いまだ戻ってこない子もいるのです。
なぜ子どもたちは犠牲にならなければいけなかったのか。
東日本大震災当時、学校に避難していた子どもが亡くなったケースはこの大川小学校だけです。
小学校に避難していた子どもたちは皆助かっていた。
なのになぜ、大川小学校だけはこうなってしまったのか。
学校では何があったのか。
最終的に裁判までもつれ込み、ニュースなどで知っている方もいらっしゃるとおもいます。
私はずっと親御さんたちはひどいなと思っていました。
子どもたちが大好きだった学校を訴えるなんて、
そう単純に思ってました。
テレビでは「裁判を起こしました」のみの報道ばかりで
そのバックグラウンドはしりませんでした。
それが詳細に書かれています。
子どもが助かった人
子どもが亡くなってしまったけれど亡骸はもどってきた人
亡骸がいまだにもどってこない人
さまざまな立場の親がいましたが誰しもが
「あの日学校で何があったのか教えてほしい」
それを聞きたいだけだったのです。
ほぼ終盤でカウンセリングを行っていた僧侶の話が載っています。
「カフェ・デ・モンク」の活動も行っていた僧侶が
傾聴したことや実際除霊を行った体験が書かれています。
あの日、東北は寒い日で
今まで体験したことがない揺れのあとでのまれた人々は
ただただびっくりしたり戸惑ったのでしょう。
そしてどこにいけばいいのか。
大好きな家族はどこだろう。
お母さんに会いたい。
大事な人を乞うそれだけだったんだろうな
幽霊を否定せずただ受け入れることで
安堵した人は沢山いたのでしょう。
哀しい思い出に記憶が消されないように
哀しいことも記憶も覚えていていいこと。
つらくても楽しい時は笑っていいこと。
被災者はかわいそうではない。
同じように日常を生きてることも丁寧に書かれています。
著者:リチャード・ロイド・パリー 翻訳:濱野大道
出版社:早川書房
発売日:2021/1/21
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