どんな内容なの
その島では多くのものが徐々に消滅していき、一緒に人々の心も衰弱していった。
HonyaClub より
鳥、香水、ラムネ、左足。記憶狩りによって、
静かに消滅が進んでいく島で、わたしは小説家として言葉を紡いでいた。
少しずつ空洞が増え、心が薄くなっていくことを意識しながらも、
消滅を阻止する方法もなく、新しい日常に慣れていく日々。
しかしある日、「小説」までもが消滅してしまった。
有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、
空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。
読んでみて
ある日突然それが消えてしまう。
「リボン」「鈴」「鳥」…
ものだけでなく生き物までがある日突然消えてしまう。
人々は消滅したものを燃やし、その島からなくしてしまう。
それはひとの身体さえも同様に行われてしまう。
「左足」が消えてしまっても、実際はそこに左足はある。
けれどもその左足を認識することはできない。
人々は違和感と不安を感じながら、今まで通りなくなったそれらを気にすることなく
生活を続ける。
そんな消滅したものものを認識し、覚えている人たちが一定数いた。
彼ら彼女らは「記憶狩り」として秘密警察に連れていかれてしまう。
そして戻ってくることはない…
主人公は作家で、自分の担当編集Rが消滅した記憶が残ってると知り
自宅にかくまうことにする。
両親が生前の頃から面倒をみてくれたおじいさんと主人公は
Rをうまくかくまうが、
どんどん言葉は消え続け、そして冬が終わらなくなり
「小説」も消えた…
ディストピアのような世界で主人公たちは
淡々と生きていきます。
当たり前だったことが消えてしまうことへのあきらめ
しょうがないと図書館ごと燃やしてしまうという行動
それでもこの島から出れば何とかなるかもしれないと
脱出をこころみる人々
この本は最初から最後まであきらめと静寂が満ちています。
それなのになぜ記憶が残っているRをかくまうのか。
かくまわれた彼はなんとなく、終盤にむかうほど
生き生きとしてるようにさえ見えます。
そして最後に残ったのは「声」
人は最後まで耳の機能が残っていて音が、声が聞こえるといいます。
その声だけが残ってそして消滅します。
なぜこの島は全てを消滅させたのか
またなぜ記憶を消せない人がいるのか
残ったRは何を思うのか。
彼女が書いていた小説もまた同じように消えてしまう。
ただただ静寂だけが残るおはなしです。
著者:小川洋子
出版社:講談社
発売日:2020年12月15日
【本日のサムネイル】
ダイヤモンドダストのイラスト(背景素材)
雪の結晶が空に輝いているイラストです。
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