【殺したので逃げました】果ての海

文芸

「人を殺してしまったので、逃げました。
コンパニオンをしていましたが、一年ほど後に捕まりました。」

本書をまとめると、この二行です。
ですが内容はそう単純なものではありませんでした。
濃いです。
TVドラマなどで昔みかけた
「人を殺して逃げた」
これを文芸で見たことは私はありませんでした。

ざっくりこんな内容です。

40代の女性、おとなしい愛人が殺してしまい逃亡、
寮がある温泉旅館で偽名で働きだすが
コンパニオンをしないかと誘われます。
「離婚して行くあてがない。」
親切心なのか、助平心なのか。
今まで愛人として生きてきた女性が
どんどん女性として自信を取り戻してゆく…

前半の、ここがすごい!

この本書は前半後半の二部構成となっています。

旅館の住み込み従業員からコンパニオンとなったことで
それまで
「自分はおばさんだから…」
と思っていた主人公が
女性としてみてもらえる
ただのおじさん客の助平心のセクハラ行為でもそう感じ
それに純粋に喜び、
「でもこれは本当の私ではないのに?」
と訝しくも思う。
女性としてみられることで、
ひととしても自信を取り戻していくのが
ハッとさせられました。
それがかりそめの自身だとしても
最初の鬱屈していた頃よりも
親近感がわきました。


すこし性交のシーンはありますが
直接的な表現はありません。
しかしコンパニオンになって以降は
夜の男女の雰囲気が濃厚です。

それだけに
知り合った女性と昼間に一緒に遊ぶシーンは
普通の女性同士の仲良しさが、
嘘のものなんだなあと感じてせつないです。
でもこの女性がいたから
主人公はこの地で頑張れていたのかもしれません。

後半部分は…

主人公は前半の最期で警察に捕まってしまいます。
ここから主人公は全く登場しません。
実は主人公には娘がいたのです。
前半で時折インスタグラムで登場していた娘の存在ですが
後半では娘本人のパートになります。

前半で娘のことを案じていた主人公ですが
よくよく読むと違和感があったのですが
やっとその違和感や、事件そのものの謎が解明されます。
何故主人公は愛人を殺さなければならなかったのか。
母親だからこその娘への気持ちが
間接的ではありますが
本人が感じるものとなっています。

読んでみて

この本に登場する女性は
全員男性に振り回されています。
男と女がねんごろになる。
それに嫉妬する女性がでてくる。
一方男性は女性らを若くないと馬鹿にする。
そして若い女性をも馬鹿にする。

実際の生活でも
若くないことをばかにする男性は多いですし
加齢を卑屈にとらえる女性もいます。
(そもそも日本は若い=えらい、
という構図があるように感じます)
最期の最期で主人公は自分自身に対して
「女性としての自信」を取り戻したのはよかったと思います。

また食事のシーンがとにかく多いです。
とにかく多くて
読んでる時は
「すごく食いしん坊さんなのか~」
だったのですが
性欲的な意味での表現だったのでしょうか。


性愛の果てに得るものは一体何なんだろうか。
男と女はそれ以外で繋がることは不可能なのだろうか。
始終ものがなしい本でした。

【あらすじ】

「埼玉県内で会社を経営する男性の遺体を発見。
警察は、事情を知ると見て、内縁関係にあった女の行方を追っています―」
顔を変え、新しい名前を手に入れた女は、日本海沿岸の温泉地で働き始める。
誰も知る者のいない新天地で、別人としての人生を生きるはずだったが…。
人間の欲望と業をみつめるスリリングな長篇小説。

HonyaClub より

果ての海

著者:花房観音
出版社: 新潮社
発売日:2021/8/31


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